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2008年9月14日
コントロール
▼cinema:制御不可能な生きざま、モノクロの人生。
コントロール デラックス版 サム・ライリー, サマンサ・モートン, アレクサンドラ・マリア・ララ, アントン・コービン ジェネオン エンタテインメント 2008-09-10 by G-Tools |
マンチェスターのバンドであるニュー・オーダーには何やら楽しげでポップな雰囲気がありますが、その前進でもあるジョイ・ディビジョンは内向的な暗い印象が否めません。このふたつのバンドは、光と影のようにも思います。影から光が生まれた。あるいは、影という重々しさを突き抜けてヴォーカリストを失った抜け殻は、光の軽さでしか存在し得なかったような。
ジョイ・ディビジョンの歌詞や曲調は、社会から孤立(アイソレーション)した人間のひりひりとした寂しさや拒絶された何かを感じさせるものです。けれども、だからこそバンドとしては、どうしようもないぐらいに衝撃的なカリスマ性があったのではないでしょうか。それが退廃的で、儚いものであったとしても。
「コントロール」は、ジョイ・ディビジョンのヴォーカリストであるイアン・カーティスの人生を描いた映画です。アメリカツアーという成功の目前の朝に23歳という若さで自殺するまでの彼の生きざまが描かれています。
アントン・コービン監督は、そもそもロックを撮るフォトグラファーだったようです。この作品は、映画の第一作だとか。確かにモノクロームの映像は、動画ではあるのだけれど、写真の連続というか、ソリッドな静止画の美しさがあると思いました。特に若い頃のイアンがベッドに寝転んで音楽を聴くシーン。上半身裸の彼の身体は、鮮明な美しさで撮られていると思いました。また、顔のクローズアップも圧倒的な美しさです。イアン役のサム・ライリーは目がでかいなー、というのが率直な第一印象でしたが。
ちいさなライブハウスからスタートして大きな存在になっていく課程は、さまざまなアーティストにとってステレオタイプなストーリーではあり、その過程で女性関係で悩んだり、才能の限界を感じたりするのもまたありきたりという印象があるのですが、抑制されたモノクロの映像が大袈裟になりがちな物語をコントロールしている気がしました。これがカラーの派手な映像だったら、ちょっと引く気がします。
バンドの演奏風景もよく再現されていると思いました。イアン・カーティスの独特のノリも、きちんとサム・ライリーが演じている。リッケンバッカーのベースがいいなあと思いました。あとドラム。がりごりしたベースラインと合って、タイトなリズムがかっこいい。さすがに本物のジョイ・ディビジョンと比較すると何かが違う気がするのですが、それはどうしようもないことで、かなりいい感じの映像になっていると思います。
ちなみに、ジョイ・ディビジョンの演奏をYouTubeから。
ぶっとんでいます。映画でもきちんと再現されていました。
表現者というのは、やはり強い精神力が求められるものだと思いました。また、精神だけではなくて身体の健全性がなければやっていけない。しかしながら、強くて健康なアーティストが作った曲が、ぼくらの心を打つのかというと、必ずしもそうではない。苦しみや弱さのなかで絞り出した悲鳴や叫びのような声が、ぼくらの心を揺さぶるものです。
とはいえ、アーティストではない凡人のぼくにはちょっと辛いものがありました。行き場所のない悲壮感があった。観終わったら暗くなっちゃった。モノクロで描かれたイアン・カーティスの人生に対して、ぼくが感じたコントロールできない何かは、制御可能な現実のなかで解消してしまいたい。当たり前だけれど、イアンのようには生きられません(9月14日鑑賞)。
■公式サイト
http://control-movie.jp/
投稿者 birdwing : 2008年9月14日 23:59
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