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2009年3月 8日

きまぐれロボット

▼cinema09-06:コミカルな未来、のようなリアル。

B001MTTCJIきまぐれロボットDVD+CD(SOUNDTRACK by コーネリアス)
きまぐれロボット DVD+(オリジナル・サウンドトラック byコーネリアス, 浅野忠信, 香里奈, 逢坂じゅん
ワーナーミュージック・ジャパン 2009-02-25

by G-Tools


星新一さんのショート・ショートをショートフィルム化。うまい組み合わせです。もともとは携帯電話に配信されていた映画とのこと。携帯電話で映画を観る経験のないぼくには想像できなかったのですが、モバイルのヘビーユーザーにとっては、いまやふつうのことなのだろうか。これなら観てみたいと思いました。通勤時間に1本楽しむ感覚かもしれません。おんぼろのP902iをいまだに使っているけれど、携帯電話を最新の機種に換えようかな。

テンポのいい40分のムービーです。面白かった!随所で、うわはは!のような感じでウケた。声を出して笑いました。中野裕之監督の「SF サムライ・フィクション(DVD買ってしまった)」や石井聰亙監督の「 エレクトリック・ドラゴン 80000V (浅野忠信さんが出ている)」を観賞したときにも思ったのですが、邦画では音楽のプロモーションビデオに似た映像表現で、あえてモノクロの映画が好みです。ローテクなのかハイテクなのかわからず、新しい技術と古い文化が混在している感覚がいい。

主人公エヌ氏(浅野忠信さん)は、新聞小説(!)の作家であり、日々原稿に追われています。母(夏木マリさん)がサポートしていたのですが、突然死してしまう。そこで、朝食を作ったり生活の瑣末なことを任せられるロボットを探して工場を訪れます。この工場が日本の下町に多い旋盤工場のようなたたずまいであり、けれども全部自動でロボットが生産されている。21世紀ってそんなものだろうな、と妙にリアルでした。

彼が雇ったロボット「ジロウ」は、身体がずんぐりしていてかわいい。何か言われると音声で対応するのではなく、口からでっかいレシートのようなもので返事を吐き出します。そこには、ドットのばかでかい文字で「ハイ。」とか書いてある。

しかし、「もっと早く走れないかなー」とエヌ氏に苛立っていわれると、ジェット機にトランスフォームするほど高度な機能をもっています。かと思うと、修理にきた助手(香里菜さん)が後ろから叩いて取っ手をあけると、操作パネルには、「きまぐれ」と「すなお」というつまみしかない。それも古いボリュームコントロールのようなつまみです。すっとぼけた細部の設定が楽しめました。

エヌ氏は、ロボットに家事をさせながら鉛筆を削って原稿用紙に書いています。PCをかたかた打つのではないんですね。そういえば自分も少年の頃には、専用のナイフを親から渡されて鉛筆を削っていたっけ。それが親の教育だったようですが、鉛筆を削るのは得意でした。小説のアイディアに詰まると、エヌ氏はお尻を叩いて発想のひらめきを得ようとします。そんなコミカルな作家を淡々と演じている浅野忠信さんの演技が楽しい。好きな俳優さんなのですが、これは適役だな、と思いました。

星新一さんのショート・ショートは、卒業した学校のような懐かしさがあります。確かはじめての彼のショート・ショートに触れたのは、小学校に入学したばかりのときに教科書に掲載されていた、モグラのロボットの話(タイトルを失念しました)だったかと思います。荒地に花を咲かせるロボットなのだけれど、研究所が封鎖されてしまっても、けなげに働きつづけていて、研究所のあった島を花でいっぱいにしていた・・・のような物語でした。星新一さんの監修のもとに、「SFショートショート・ランド」というような雑誌もあったかと思うのですが、恥ずかしながら10代の頃、その雑誌に常時開設されていたコンテストに応募して佳作になったこともあったっけ。

ロボットが暴走したときに、「きまぐれになるように設定しておいたんですよ」と博士は笑って告げるのですが、すねたり怒ったり、ときには仕事をボイコットすることもあるからロボットはとても人間らしい。さらっと言ってしまうけれど、技術的には、このきまぐれ(ファジー)の実現こそが、難しいテーマではないのでしょうか。

原稿を頑張って書いているエヌ氏に、そっと手書きの応援の手紙を差し入れるジロウにあたたかいものを感じましたが、彼を生真面目に動くように修正すると、「死にたいよ」とこぼした言葉を額面通り受け取って、「みなまで言うな」とエヌ氏をドリルで刺し殺そうとする。言葉をすなおに受け取るあまりにコミュニケーション不能に陥った壊れたロボットに恐怖を感じました。

ものすごい制作費をかけたエンターテイメントの大作もいいけれど、インディーズな雰囲気が漂うショートフィルムも楽しいですね。ちなみに音楽はコーネリアス。小山田圭吾さんの曲とのマッチングもよかったと思います。シリーズ化してくれるとうれしいのですが、なかなか難しいのかもしれないなあ。短いとはいえ、完成された脚本や映像の演出のためには、かなりの手がかかっていると思うので。

オチはなるほどね、という感じです。映画ならではの含みがあって、観ているものを和ませる終わりかたです。小説の場合には、こういう終わり方はできないかもしれません。3月8日観賞。

■メイキング

投稿者 birdwing : 2009年3月 8日 11:49

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