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2009年4月 7日

ウォンテッド

▼cinema09-10:暗殺者に転職した人生落伍者の過酷なレッスン。

B001O09470ウォンテッド リミテッド・バージョン [DVD]
ジェームズ・マカヴォイ, アンジェリーナ・ジョリー, モーガン・フリーマン, テレンス・スタンプ, ティムール・ベクマンベトフ
UPJ/ジェネオン エンタテインメント 2009-02-25

by G-Tools

野球選手には、バッターボックスで精神を集中する球が止まってみえる、というひとがいます。分解処理の能力をあげていくと、時間はゆっくりと、そして空間は細部まで見渡せるようになるのかもしれません。

というような表現で思い出す代表的な映画は「マトリックス」でしょうか。のけぞって弾丸を避ける表現は、VFXならではのものでした。「ウォンテッド」は暗殺者の物語ですが、暗殺者視点ではなく弾道視点で、銃から発射された弾がターゲットを射抜いたところから逆に時間を遡って、はるかな飛距離を越えて銃のなかにおさまる。まずは、そんな表現が印象的でした。

どん底の生活のなかで自分を見失っている主人公ウェスリー(ジェームズ・マカヴォイ)。会社では顧客管理担当という仕事に就いていますが、肥満の女性上司に、耳元でかちかちホチキスを鳴らされて小言をぶちまけられながら、ストレスにまみれた毎日を送っています。しかも、後ろの席の同僚に恋人を寝取られている。住んでいるアパートといえば電車の高架の近くで騒音が酷い。悲惨な人生を悲惨とも思わないほどに麻痺してしまっていて、毎日を惰性で生きています。

ところが、実は7歳のときに自分のもとから去っていったという父親は凄腕の暗殺者で、彼にもその暗殺者としての潜在的な凄い能力が眠っています。父親は、繊維工場で織物に託されたメッセージから次のターゲットを決めるという謎の組織フラタニティに所属していました。その父が殺されたということで、いきなりフラタニティ参加を求められた主人公は、過酷な特訓を重ねて暗殺者として成長していくのですが・・・。

アクションは凄い。女性暗殺者フォックス役のアンジェリーナ・ジョリーは、こういう映画では映えるなあ、と思いました。ふくよかな唇は健在という感じで、全裸で風呂からあがるシーンもあるのですが、あまりセクシーとは思わなかったかな。むしろ、アクションシーンの激しさのほうがインパクトがありました。

映像もテンポがよく、やはりかっこいい。スローモーションや早送りのような処理を多様した表現は非常にクールです。が、勢いに流されて観終わったあとに冷静に考えると、ストーリーの整合性としてどうなの?とか、ちょっと強引すぎませんか?という細部が気になります。詳細は語りませんが、父親をめぐる設定は、なんとなく納得できない。

そんな細部の整合性を考えさせる余地のない、ぐいぐいと押してくる映像に圧倒されました。生半可な気持ちで、ストレスまみれのサラリーマン生活から暗殺者という専門職(なのか?)に仕事替えをしたウェスリーは、リンチにも似た残虐な特訓を受けます。そうして、遺伝として父から引き継いだ殺人の超能力を呼び覚ましていく。

ハードな特訓で再起不可能に傷付けられると、回復風呂というものに入れられて、全身の傷を癒します。この回復風呂、いいなーと思いました。入りたい。できれば、こころの回復風呂があってほしい。しかし、身体の傷はある程度なおすことができたとしても、こころの傷は治しがたいものでしょう。

ストレスまみれの袋小路のサラリーマン人生と、過酷な特訓のうえに飛んでいるハエの羽を撃ち抜く(どこか中国的です)凄腕の暗殺者の人生。強引にフラタニティに引き戻されたとはいえ、これは天職への転職の物語かな、と考えたら、なんとなく深いものを感じてしまいました。

願わくば自分にもそんな超能力があればいいのだけれど。といっても小心もののぼくには殺人者などぜったい無理です。殺人以外で何か特殊な能力が眠っていないか、と探してみるのですが、なかなかない。人生って、そんなものです。4月4日観賞。

■トレイラー

投稿者 birdwing : 2009年4月 7日 23:59

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