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2009年4月12日

ハンコック

▼cinema09-13:あまりにカジュアルなヒーロー。でも運命に泣けた。

B001NK60OQハンコック エクステンデッド・コレクターズ・エディション [DVD]
ジェイソン・ベイトマン, ウィル・スミス, シャーリーズ・セロン, ピーター・バーグ
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2009-01-28

by G-Tools

遠まわしに書くのですが、どんなに想っていても一緒になれない関係というものがあります。一緒にいると、何かを壊してしまう。愛し合っているのだけれど、愛し合うがゆえに互いに傷付けてしまう。だからどんなに強い想いがあったとしても、ぜったいに一緒になれません。想いがあるからこそ、離れて暮らさなければいけない。何千年もの時間を経て、一緒になれないまま思いつづけているのだけれども、遠い距離を置くことが必須の運命にある。

切ないですね。切ないけれども愛情を守るためには、それがベストである。「ハンコック」はそんな映画です。何のことやらわからないでしょう。どういうことだ?と思ったひとは、映画を観賞してみてください。きっとわかるはず。

のっけからVFXのシーンに圧倒されるのですが、ウィスキーの瓶を片手に持った酔っ払いのとんでもない男がヒーロー、ハンコック(ウィル・スミス)です。どういうヒーローかというと、重力を無視して空を飛び回る。重い車も指先でひねってぶん投げる。銃弾でいっせいに射撃されてもびくともしません。なんなんだ、こいつは。びっくりしました。凄すぎる。

けれども、超能力を使いまくって、破壊するだけ破壊してとりあえず事件を収拾するやり方に、一般市民は納得できません。むしろ無謀なやり方に激怒している。確かにわかります。やりすぎです。事件そのものよりも、彼が破壊した代償のほうが大きい気がする。

このとき思い出したのは、ウルトラマンメビウスだったかと思うのですが、変身したばかりの若葉マークのウルトラマンが闘ったとき、周囲の建物を破壊しまくって、人間の隊員に、「なんだ、その闘い方は!」と怒られて、しょぼーんとするシーンでした。

ヒーローにも、スマートな闘い方があります。ヒーローのステレオタイプというか、きちんとマスクして顔を隠してぴったりとしたボディスーツに身をつつみ、市民といざこさを起こしてはいけない。でも、ヒーローであることは特殊な人間でもあり、だからこそ飲んだくれて拗ねてみたくもなる。プライベートなヒーロー像が描かれたハンコックには、親近感が沸きました。物語では、彼に助けてもらったPR会社のダメ社員である広報マンのレイ(ジェイソン・ベイツマン)が、彼を悪いイメージのヒーローから、ほんとうのヒーローに脱却させようと努力します。

そもそもハンコックは大人気ない。子供にマヌケと言われて、制裁を加えてしまう。そんな無軌道ぶりをおひとよしなレイは、あえて刑務所に入れることで、警察や社会が彼を必要とするように仕向けます。彼は刑務所のなかでも無軌道ぶりを発揮するのですが、そのうちに、ハンコックを刑務所に入れることで事件は多発するようになり、策略は見事に効を奏するのですが・・・。

この映画で描かれるヒーロー像は型破りです。嫌われもののヒーローといえば、バットマンなどもそうだったかもしれませんが、ハンコックは、マスクも特殊なクルマもなしにヒーローとして存在している。超能力があるというそれだけで、ハンコックはヒーローなのです。ふつうの服装をした、どこにでもいるような酔っ払いでありながら、ジェット機のようなスピードで空を飛び、玩具のようにクルマを投げ飛ばし、周囲をめちゃめちゃにしながら凶悪犯罪を解決する。そのギャップがとても楽しめました。なんだかわくわくしました。

後半で彼の特殊な能力の理由が明かされていくのですが、このどんでん返しが面白い。面白いと同時に、冒頭にも書いたように切ない。これもまた唐突な連想ですが、川上弘美さんの「溺レる」という短編集に収録された「無明」を思い出しました。

と、なんとなく吹っ切れない書き方をしているのは、ネタバレを避けるためです。どちらかというとエンターテイメントというよりヒューマンタッチな映画かもしれません。武装したヒーローではなく、素顔のヒーロー像を楽しみひとにはおススメかも。問題の多いしょうもない英雄なのですが、その人間味にちょっと惹かれます。現実社会で共感を生むことでしょう。

英雄気取りで浮いちゃうひとも仕事の場ではみかけますが、ハンコックの謙虚さを見習うといい。ヒーローは悪役と紙一重であり、そのことを自覚したときにヒーローと成り得るものです。天狗になっている自意識過剰な人物は、もしかすると他のひとたちからとても疎まれているかもしれない。

ヒーローにも人間性が求められる世界です。勧善懲悪が絶対的な力を持っていたのは遠い昔のことで、いまでは悩み多き英雄が求められるのかもしれません。正義ではなくても、うじうじと病んでいても、力を駆使することを躊躇ったとしても、それがヒーローである。なんだか難しい社会になってしまいました。4月12日観賞。

■トレイラー

■公式サイト
http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/homevideo/hancock/

090412_HANCOCK.jpg

投稿者 birdwing : 2009年4月12日 23:59

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