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2010年1月 3日

ONCE ダブリンの街角で

▽cinema10-01:路上からはじまる音楽と恋。

B0016XF4OWONCE ダブリンの街角で デラックス版 [DVD]
ジェネオン エンタテインメント 2008-05-23

by G-Tools


パートナーを探すのは難しいものです。相方といってしまうとなんだか芸人みたいですが、異性にしても同性にしても、生涯を通じて協働できるひと(相方)をみつけるのは難しい。お互いを理解し、ハーモニーを奏でられる関係の相手にめぐり会えるのは稀有といっていい。

協働の結果、生み出すものは、創造的なアートではなくても構いません。ともに生活できる相手でもよいでしょう。しかし、世界にたったひとりとおもえるようなパートナーと偶然に出会えても、一緒に暮らしたいけれど暮らせない状況だってあります。運命はときに非情あるいは理不尽です。

「ONCE ダブリンの街角で」を観て、そんなことを考えました。
いい映画でした。ちょっと泣けた。

ストリートミュージシャンとしてダブリンの街角でギターを弾きながら歌う男(グレン・ハンサード)は、掃除機の修理屋である父親を手伝いながら、自作の曲を作りつづけています。路上でかき鳴らす彼のギターは、ピックで削られて穴が空いている。

画面でギターのヘッドをよくみると、ぼくが持っている中古で買ったエレアコと同じメーカー(Takamine)だったので、ささやかですが、うれしくなりました。また、5000円ぐらいのぼろぼろのギターを演奏して天使のような歌声を聞かせてくれた、タマス・ウェルズのライブを思い出しました(そのときのエントリはこちら)。

彼のもとに、チェコから移民して雑誌や花を売って生計を立てている女(マルケタ・イルグロヴァ)が現れます。最初は掃除機を修理してもらおうと付きまとう彼女に、男はそっけない態度を示すのですが、いろいろと話をするうちに、彼女がピアノを弾いて歌うことができるのを知る。

いつも昼休みに彼女が1時間だけピアノを弾かせてもらえることができる楽器店で、彼が自作の曲をすこしずつ教えながら、ふたりで演奏するシーンは、こころがあたたまりました。いいなあ。ひとりで作った曲が誰かとの演奏で精彩を放つ。ぞくぞくする瞬間です。バンドをやった経験のあるひとであれば、こんな理想の出会いに一度は憧れることがあるのではないでしょうか。

そのときの楽曲がいい。「Falling Slowly」という曲ですが、覚えやすいメロディと歌詞、メインボーカルに寄り添うようなマルケタ・イルグロヴァのハーモニーが心地よい。北欧的な透明な印象と、あたたかさを感じました。YouTubeから引用します。

■ONCE: Falling Slowly

男には別の誰かのもとに去っていった恋人がロンドンにいて、女は結婚していて旦那をチェコに残したまま母親とちいさな娘と暮らしています。

ほんとうは音楽だけでなく互いに求めているのだけれど、だからこそふたりは音楽に徹して距離を隔てる。近付きたいのだけれど節度を保って、友情をあたため、音楽に向かい合うふたり。やがてデモテープを作るために、路上で演奏する仲間を集めてスタジオで録音します。

最新式のデジタル録音のミキシングコンソールを使って音を録るのですが、明け方の4時過ぎまで録音して、そのあとエンジニアのクルマに乗って海までドライブして、カーステで自分たちの曲の仕上がりを確かめるシーンにじーんときました。そういえば社会人バンドをやっていた頃、バンドのリーダーだった大学の先輩のクルマのなかで、こうやって自分たちのオリジナル曲を何度も聴いたっけ。

同様に些細だけれど胸に迫ったのは、マルケタ・イルグロヴァが借りたCDプレイヤーでデモを聴きながら、娘が眠るベビーベッドの隣りで歌詞を考えていて、電池が切れてしまう場面。娘の貯金箱からお金を借りて深夜のドラッグストアで電池を買い、夜の街を口ずさみながら家に帰ります。

立派な機材に恵まれていなければ音楽ができないのではなく、貧しいなりに、楽器店で1時間空いているピアノを貸してもらうとか、借りもののCDプレイヤーで何度も繰り返しデモを聞くとか、そんなひたむきさが大切なんだよなあ、とあらためておもいました。バンドのメンバーを集めてからも、彼らはスタジオではなく、グレン・ハンサードの演じる男のベットルームにドラムスまで持ち込んで練習します。お父さんがお茶菓子を差し入れたりする。こういうことってあるよね、と微笑んでしまいました。

サウンドトラックも人気だったとのこと(全米チャートで2位)。ぼくも久し振りに映画のサウンドトラックがほしくなりました。

映画そのものは、はじめは全米で2館の公開だったそうですが、その後口コミで話題になり、140館まで劇場数を増やしたそうです。わかる気がする。ぼくにとっては、根底にインディーズの匂いがあり、音楽への愛情が貫かれているところがよかった。たぶんそれはアフレコなどではなく、グレン・ハンサードにしてもマルケタ・イルグロヴァにしても、きちんと演奏できるアーティストを起用したためでしょう。監督のジョン・カーニーは、グレン・ハンサードとバンドを組んでいたこともあるようです。

音楽好きにはたまらない映画だとおもいます。バンド、やりたくなりました。1月2日観賞。

■トレイラー

■公式サイト
http://www.oncethemovie.jp
100103_once.jpg

投稿者 birdwing : 2010年1月 3日 18:39

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