自然の音を標本に。
春ですね。風がずいぶんやわらかくなった気がします。重いコートを脱いだら肩の荷がどっさりと降りた感じです。荒涼とした冬のような気分もふっと軽くなりました。われながら単純ですが。
ブログで2日ばかり連続して理屈っぽい長文を書いたところ、なんだか疲れてしまった。いったいぼくは何をそんなにムキになっていたのでしょう。よくわかりません(苦笑)。そこで今日は脱力して、やわらかいことを書きます。
雪解け、あるいは小川のせせらぎのような
趣味のDTMで作った曲として、「ハツユキ」「サクラサク。」と過去の曲ばかりハードディスクから発掘して公開していますが、現在進行中の曲もあります。
最近はタイトルやイメージを固めて準備ができてから作り出すのではなく、なんとなく思い付いたときにDAW(音楽制作用のソフト)を立ち上げて、気の向くままに制作しています。ブログの原稿を書くためにテキストエディタを立ち上げるようなものです。
したがって、タイトルも「07_mar6」のように無味乾燥な感じで作り始めます。これは2007年の3月の6つめのプロトタイプ、という意味なのですが、イメージも何もない。連番を付ければいいので簡単に作り始められるけれども、完成したあとで探すのに困るのが難点です。といっても一度ミックスダウンした曲はなるべく振り返らないようにしているんですけどね。というのは、永遠にやり直しをしたくなってしまうので。
いまのところ3月のプロトタイプは「07_mar6」まであるので、6曲ばかり作っていることになります。作り込みすぎて複雑な構成のためにマシンで再生できなくなって立ち往生したものもあれば(泣)、数小節しかできていないものもあります。
このなかで、もっとも未完成の短いプロトタイプ(07_mar5)を公開してみます。イメージとしては、雪解けでしょうかね。そんなわけで仮にタイトルをYukidokeとしてみました。
■Yukidoke_proto 1分30秒 2.09MB 192kbps
曲・プログラミング:BirdWing
うーむ。まとまっていません(苦笑)。
小川のせせらぎのような感じでもあります。季節が変わり、風が暖かくなると、すべてのものがゆるゆると解け出します。頑なに閉ざしていた気持ちもやわらいで、解放的になるものです。そんなイメージでしょうか。
素材として使った音については、以下のフリー音源のサイトからピックアップしました。
■The Freesound Project
http://freesound.iua.upf.edu/index.php
このサイトは素晴らしい。クリエイティブ・コモンズのライセンス下に置かれているようですが、無料音源の宝庫です。もちろん有料のサンプリング音源ほど使い勝手はよくないけれども、ちょっとしたアクセントを加えるのには重宝します。サイトの効果音などにも使えるのではないでしょうか。
Yukidokeは背景にアンビエントな雰囲気のノイズが入っていますが、これはイギリスのメトロ(地下鉄)のノイズだったと記憶しています。そんなサンプルを逆回転させて使いました。上記のサイトには、鳥の声などもあって、思わず生録に憧れていた少年時代の熱い気持ちを思い出しました。
生録というのは、高性能なカセットデッキ(主としてソニーのデンスケ)とマイクを抱えて、自然の鳥の声などを録音するために出かけるアウトドアライフのようなものです。少年の頃、ソニーのデンスケとか欲しかったんですよね(誰も知らないか)。写真はソニーファンのページからデンスケです。
映画のなかの生録
The Freesound Projectに収録されているいくつかの自然の音を聴いていて、思ったことがあります。定年を過ぎたら、自分で音楽を創るのではなく、自然の音楽を記録するような趣味もいいかな、と。
老人になったぼくは、昼間は街や郊外を歩いて(ときには少しだけ遠出して)、海の音、風の音、木々のざわめき、鳥の声、雑踏の騒がしさを採集、サンプリング(標本化)する。夕方になったら家に帰ってリビングでJBLの立派なスピーカーを前にして、採集した音を再生して聴くわけです。少しだけお酒を飲みながら、本なども読んでうとうとしつつ。そんな風に自然の音を記録したり再生して愉しみながら、日々を穏やかに暮らしていく余生もいい。
生録で思い出したのですが、ぼくが観賞した日本の映画のふたつの作品で、偶然にも同じ役者さんが生録を趣味とする役柄として登場していました。役者さんは浅野忠信さんで、ひとつめは「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」、ふたつめは「珈琲時光」です。
エリ・エリ・レマ・サバクタニ 通常版 青山真治 バップ 2006-07-26 by G-Tools |
珈琲時光 一青窈, 浅野忠信, 萩原聖人, 余貴美子, 侯孝賢 松竹ホームビデオ 2005-03-29 by G-Tools |
浅野忠信さんといえば、大林宣彦監督の「青春デンデケデンデケ」を思い出すのですが、ミュージシャンやカメラマンのような役柄(しかも寡黙)が多いような気がします。
「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」は近未来の話で、その社会では感染すると自殺したくなるウィルスが蔓延しています(うーむ、なんだかタミフルを思い出しちゃったぞ)。浅野さんはふたりのユニットで前衛的な音楽をやっているのですが、なぜか彼等のユニットの轟音かつノイジーな音楽を聴くと、ウィルスが消滅する。つまり音楽がワクチンになる。そこで、ひとりの金持ちが病気に感染した娘を救ってほしくて彼等に会いにいく・・・・・・という物語でした。
「珈琲時光」は、小津安二郎の生誕100年を記念して「東京物語」のオマージュとして作られた映画です。一青窈さんとの淡々とした日常が描かれます。浅野さんは電車の音を生録するのが趣味、という地味な役柄でした。
生録が出てくる映画は、洋画でいうと「イル・ポスティーノ」でしょうか。
イル・ポスティーノ マイケル・ラドフォード マッシモ・トロイージ ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント 2006-04-19 by G-Tools |
詩人に憧れる郵便配達人が、詩人から預かったテープレコーダーを持ち歩いて、海の音や夜の音などを録音する。音にはなぜか詩的なものを感じます。郵便配達人は詩人に憧れるのだけれど、結局のところ詩人にはなれない。静かなせつなさが残るいい映画でした。
生録に関心があると、そんな映画を引きつけてしまうのですかね。あるいは映画制作には録音が大事なので、映画の脚本を作るときに自然とそんな役を設けているのかもしれません。
音に関する映画というのは、まだまだたくさんあるような気がします。あれば観てみたいです。
投稿者: birdwing 日時: 00:00 | パーマリンク | トラックバック (0)