雇用問題を考える。
夢をみました。学校のような場所で試験の採点を受けている。セピア色の解答用紙に墨で大きな丸が付けられていきます。サインペンか何かの、しゃっ、しゃっ、という丸付けの音が聞こえるようです。紙をめくりながら採点していくのですが、あれ?一枚提出していない・・・と焦る内容でした。
いくつになっても、試験の夢ほど居心地の悪いものはありませんね。小学校の頃にはそこそこ勉強もできたはずなのですが、以後、すっかり勉強嫌いの路線をまっしぐらでした。大学を卒業するときの成績は目も当てられない状態です。けれども、若いころの不勉強の反動からか、最近は勉強意欲がぽつぽつと沸いています。ふつふつ、ではないところが控えめです。ぽつぽつ。
1月も半ばを過ぎて、通勤電車のなかでは参考書や講義ノートを開いて熱心に読み込んでいるひとたちをみかけます。大学入試センター試験は終わりましたが、受験の時期なのでしょう。
大学に通う学生たちは、後期試験の期間中かもしれません。遠い昔のことなので忘れてしまいましたが、そんな時期なのだと思います。レポートなどの課題もありました。徹夜で書き上げたこともあったっけ。結構大変なんですよね。学生の頃を偲びながら、まずはエールを送りたいと思います。
がんばってね。
プレッシャーもあり、しんどいかもしれないけれど、悔いのないように。
その辛さは永遠につづくものではありません。きっとあなたの未来は開けると思う。春には新しい世界が待っています。だからいたずらに焦らずに、落ち着いて、集中して、できるところからひとつずつ乗り越えてください。大統領のことばを真似るわけではありませんが、あなたにはできる。大丈夫。
応援しています。
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さて、池田信夫さんのブログを読みつつ考えたことを書きます。
「正社員はなぜ保護されるのか」「19世紀には労働者はみんな「派遣」だった」「部族社会と大きな社会」の一連のエントリをまとめて読みました。ここで書かれている見解は非常に興味深いものでした。
しかし一方で、どうなんだろうな、というぼんやりとした反論も感じました。理屈よりも感情に負う部分が多いかもしれません。けれども、できるだけ冷静かつ論理的に考えてみようと思います。
理屈で考えると、「正社員を過剰に保護する解雇規制」の撤廃という、池田信夫さんをはじめとする識者の施策はあり得ると思います。派遣労働者だけにしわ寄せがあり、厳しい状況に追い込まれるアンフェアな現在の雇用を打開する方法としては、効果的といえるかもしれません。
とはいうものの、やはり学者の視点というか、プレパラートの上から社会を眺めて考えているのではないか、という印象を感じずにはいられませんでした。血の通わない考え方が納得できない。
人道的ともいえる面から訝ってしまったのは、施策に伴う"社会不安"や"痛み"をまったく考慮していないのではないか、ということでした。理屈では正論だけれど、社会的には池田さんの言っていることは、ひょっとしたら正しくないかもしれないのでは、と。
ソニーが正社員のリストラに踏み切ったとき、業界には衝撃が走りました。欧米的な合理的な施策として評価もされましたが、ビジョンなく追随した企業や揺れ動いた企業もなかったとはいえません。今年になって景況は悪化していますが、この過敏な状況下で、さらにアグレッシブな正社員の解雇規制を撤廃する施策をとることは、はたしてよいのでしょうか。恐慌に脅える社会をさらに不安におとしめるものになるのでは。
時代の全体を見渡した配慮に欠けている、とも考えました。
というのは、成長期であれば正社員の解雇規制を撤廃しても労働の需要があるため、流動的な仕事の機会が生まれて、労働環境は活性化するでしょう。しかしながら、現状では派遣労働者さえ救えないのに正社員まで解雇したら・・・。仕事のないひとたちで世のなかを溢れさせて、混乱させる様相が目にみえています。社会全体を見渡した配慮ができていない、きちんと考察されていない。そんな見解として、ぼくはとらえました。
環境下で生きるひとの痛みを考慮せずに、正社員の解雇規制の撤廃を掲げているとすれば、その提言者は、象牙の塔という安全な場所に引き篭もって思考遊びに夢中な世間知らずか、あるいは非人間のどちらかではないか。提言している知が正しく、学問に裏付けられて権威があったとしても、人間性に欠けた施策には、ぼくは賛同できません。
いや、甘いこと言ってんじゃないよ、強いものが生き残るんだ、この不況はサバイバルだ、それぐらいの血を流さなきゃ社会は変わんないよ、と、かつての政治のリーダーのような言葉で反論があるかもしれません。でも、それでいいのでしょうか。違うんじゃないかな。
こういう時代だからこそ人間性が求められると考えます。混乱した世の中だからこそ、合理性のもとに感情を逆撫でして混乱をさらにかき混ぜるイノベーターよりも、弱々しくても君子として志があり、じっくりと耐えるようなハートウォーマーな施策を求めたい。
社会全体を救うためには犠牲も必要だ、という考えもあるかもしれません。しかし、どちらかを切り捨てる発想ではなく、強者も弱者も同時に救おうとしたとき、もっとも高い次元の知が発動されるのではないでしょうか。それはとてつもなく困難な"課題"です。困難ではありますが、難しいからこそ取り組みがいがある。
派遣を切ればいい、正社員の解雇を認めればいい、というどちらも、ぼくには安易な施策にしか思えないし、根本的な解決にはならないと思います。
「終身雇用は日本の文化や伝統に根ざしたものだ」の「根ざしたものだ」という起源については池田信夫さんが指摘しているように「論理的にも歴史的にも根拠がない」誤りかもしれないのですが、その誤りを指摘することが重要ではない気がしました。それは言葉じりをとらえた、揚げ足とりにすぎない。
ぼくは正社員の解雇を認めることに反対、というわけではありません。そうした施策が新たな機会を創出することもあるだろうし、雇用の澱みを活性化する場合もあるでしょう。しかし、日本の文化や伝統に適合している、という意味では、終身雇用は重要だと考えます。
終身雇用によって雇用の流動性が失われるということもわかります。ただ、雇用対策の施策は理論で正しいことよりも、時代に合ったものであるべきです。景気が好調なとき、ビジネス全体が攻めの状態のときであれば、正社員の解雇も容認して、ワーカーの実力を流動的にすることで経済全体を活性化できるかもしれませんが、不況時には逆に守りを固めたほうが強いと思います。
たとえば、厳しい不況下において「おまえら一生守ってやるから頑張っていっしょに会社を守れ!」と、吹きすさぶ嵐のなかで全員を奮い立たせ、スクラムを組めるようなリーダーがどれだけ頼りになるか。
懐古趣味で言うわけではありませんが、ビジネスの現場では、一心同体のつながりが日本的経営の強みではなかったかと認識しています。そして、いまの政治に欠けることも、迷いのない強力なリーダーシップ+一致団結して協働して作り上げていく組織の在り方ではないか、と考えました。離党という安易な行動を取るのではなく、なぜ組織内で徹底的に話し合わないのか、納得がいくところまで考えないのか。中途半端さが、ぼくには歯がゆい。
一匹狼の大学教授にすぎない池田信夫さんにはきっとわからないかもしれませんね。おれには関係ないし、正社員切っちゃえばいいじゃん、と言及するのはきっとたやすい。
時代を反映して、AERAの1.26号は、100社の「給与明細」というエグい記事のほか、人気企業ランキングなど不況のなかで強い企業の記事が特集されていました。
合理的清貧として、2年間のホームレス生活の経験があるオウケイウェイヴの兼元社長や、元マイクロソフト日本法人の社長だった成毛さんの記事などがありました。
記事のなかで「5%賃下げしても雇用は守る」という、日本電産の永守社長のインタビューに注目しました。
まずは、リーダーの在り方。経済危機に対して、スズキやトヨタなどの自動車メーカーでは、まっさきに創業家出身の経営者が陣頭に立ちました。そのことを次のように肯定します。
「平時は合議制でいいですよ、ワンマン経営には弊害もあるでしょう。しかし、こういうときは、求心力が大事です。創業者なり創業家出身者なりワンマン経営者なりが、ことに当たらないといけません。全社員のベクトルをあわせ、全員参加で不況に立ち向かう。そういうときに先頭に立てるのは、創業者やワンマン経営者です。やることが『甘い、遅い、中途半端』では手遅れになる」
そもそも日本電産には派遣社員が少ないそうですが、人員削減はしないとのこと。企業の生き残りだけでなく、広い視野で考えられています。
「正社員の雇用は絶対維持したい。営業損益段階では赤字にしたくないですが、もし赤字になりそうな状況が見えてきたら、ワークシェアリングを視野に入れないといけないと思っています。雇用が崩れたら社会がアウト。治安は悪くなるし自殺する人も出てくる。ワークシェアリングしてでも雇用を守ります」
ここで、池田信夫さんにはなかった視点は、治安や自殺者の増加という社会への影響です。自社を守るとともに社会的影響についても考えられる経営者は器がでかい。
守ることのほうが攻めることの何倍も大切なことがあります。しかし、「個」が「孤」である社会や会社は、結束力の面では弱い。正社員という戦力を削っていることは、コスト削減によって会社の全体を守ることができるかもしれませんが、はたして長期的にはどうなのか。数値にはあらわれない何かが失われていくような気がします。
最後に永守社長が新年に訓示したという次のことばを引用します。
「花の咲かない寒い日は下へ下へと根を伸ばせ」
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この派遣労働者、正社員、終身雇用の問題には、正解は?ぼくにはわかりません。しかし、まず考えることに意義があると思っています。
投稿者: birdwing 日時: 22:19 | パーマリンク | トラックバック (0)