「それは、「うつ病」ではありません!」林公一
▼book09-14:甘えと病気を区別する。当事者だからわかる事実。
それは、うつ病ではありません! (宝島社新書) 林公一 宝島社 2009-02-09 by G-Tools |
病気に関する本は、こころして読まなければなりません。というのは、情報を鵜呑みにしてもいけないし、かといって軽視するわけにもいかないからです。病気に対するブログなどの記載も同様です。したがって、これから書くエントリの内容は安易に判断せずに、もし疑わしきところがあれば、しっかり医師の診察を受けて判断してくださいね。
この本では20の事例から、うつ病か、擬似うつ病か、その判断と根拠を解説されています。わかりやすかった。そして、わかりにくい病気であることもわかりやすかった。解答として「現代の診断基準では、うつ病ということになります」というびみょうなものもあるのですが、その曖昧さもわかる。本物のうつ病が増加しているとともに、ブームに乗じてちゃっかり怠けるために利用しているひともなかにはいることでしょう。その事実についてあえてことばを濁すのではなく、ばっさりと考察をのべる著者の視点がすがすがしい。
ブログを休んでいたあいだ、しばらくぼくは精神を病んでいたようでした。「ようでした」というのもびみょうですが、というのも医師に診察してもらったけれど、診断結果は教えてくれなかった。ちらっと盗みみたカルテに、うつ病と書いてあったので、ああ、ぼくはうつ病だったか、と思っただけです。けれどもひょっとすると、もっと別の病気だったかもしれない、と思うこともあります。統合失調症とか、境界性人格障害とか。
メンタルクリニックに通ってわかったことは、ものすごい人数のひとがその場所を訪れているということです。ぼくの通った病院は、それほど待合室が広くないのだけれど、通勤ラッシュか?と思うぐらいに患者さんで溢れていました。みんな大変な時代なんだな、と感じたことを覚えています。
正確には、ぼくぐらいの程度では「うつ病」とは言えなかったかもしれません。重度のひとは、ほんとうに待合室で頭を床に押し付けたまま動けなくなっている。そんな患者さんと比べると甘っちょろい感じです。けれども、次のような日々を送ったときには、さすがに平常ではありませんでした。ほんとうに自分が怖くなり、意を決して「どうもぼくはおかしい。病院に行ってくる」と家族に言わざるを得ませんでした。こんな感じでした。
- 眠っても1時間で目覚めてしまう。断片的な睡眠を積み重ねる。
- 平日はともかく休日の朝は起きられない。眠れずにうずくまったまま。
- 音楽を聴きたいという気持ちがまったくなくなってしまった。
- ひたすら自分を責める言葉ばかりが浮かんで、こころから消えない。
- 仕事に貢献できない自分が不甲斐なくて仕方ない。
- 駅で電車の入ってくる方向を見られない(吸い寄せられてしまうので)。
- 死ぬタイミングを考えることが多い。ゾロメの時間に死のうとか。
誰にも言えなかった。家族にさえ、最後の最後まで言えませんでした。おっかしいなあ、なんでこんなに落ち込んでいるんだろうなあと思いながら、とにかく日々を過ごしていた。しかし、どうもやばい、これはふつーではないと思いはじめて、病院のドアを叩きました。
最悪な時期に病院に通い、クスリを処方されてわかったのは、クスリを飲むだけでぜんぜん違う!ということでした。つまり、すくなくとも眠ることができる。これだけでも、当時のぼくには画期的でした。
だから、あらためてぼくもこの本の著者、林広一さんが書いている「うつ病はこころの風邪ではない」という意味を理解できます。そして、「うつ病は治る」ということばにも、おおきく頷きます。その通り。
うつ病という診断書を書いてもらって会社を休み、休みにもかかわらずパチンコなどをして過ごす人間が擬似うつ病であることもよくわかります。それは単なる甘えですね。あるいは仕事のできない人間の誤魔化しに過ぎない。
また、ホンモノのうつ病は、この本にも書いてあるとおり、他責的ではありません。自責の念が強まる。だから、会社に対して「会社の理解がないから、わたしはこうなった。あなたたちの責任だ!」と憤る"元気のいい"ひとがうつ病ではないことにも深く頷きました。それはむしろ人格障害ではないか、という疑問についても、なるほどね、と思った。
しかし、そういうひとも、病気であることには変わりがない。そこで著者は、うつ病と区別して「気分障害」という言葉を最後に提示します。次のような定義です(P.218)。
うつ病=本物のうつ病。つまり脳の病気
気分障害=うつ病に似ているがうつ病ではないもののすべて
脳の病気というのは、ほんとうに実感しました。病気になってみてよくわかった。脳関連の書籍に出てくる図解ですが、この本でも「シナプスと神経伝達物質」という次の図解が紹介されます。
通常であればスムースに伝達されている物質の伝達がうまくいかなくなる。だから、落ち込むような気分になったり自殺を考えたりするようになるわけで、物質の伝達をクスリで改善すれば治る。次の部分を引用します(P.53)。
脳内には神経物質が何十億とあります。そして、互いにシナプスで結合しています。そこにはセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が動いています。それによって神経細胞同士は情報を伝達し、それが人間の精神活動を生んでいます。
うつ病は、このシナプスの神経伝達物質の変調による症状です。
つまり、うつ病は脳の病気なのです。
怠けでもなければ、甘えでもありません。病気です。そして、病気である限り、治療が必要なのは当然です。その意味ではインフルエンザやガンと同じです。
うつ病の治療は十分な休養と薬。そして、叱咤激励しないこと。ケース2でそう説明しました。 けれども最も重要なことは、「うつ病は脳の病気」ということを理解していただくことかもしれません。それが理解されれば、薬を飲んで休むのが第一であること、そして叱咤激励してもなにもならないことは、自然にわかっていただけるでしょう。
ぼくの場合には次の薬を処方していただきました。
・デパス(商品名):エチゾラム。抗不安薬兼睡眠薬 Wikipediaはこちら
・ドグマチール(商品名):スルピリド。定型抗精神病薬 Wikipediaはこちら
・ジェイゾロフト(商品名):セルトラリン。選択的セロトニン再取り込み阻害 (SSRI) タイプの経口抗うつ薬 Wikipediaはこちら
最初は眠気がひどかったけれど、二週間ぐらいすると気持ちが安定するようで、さらに経過すると、あらゆる食べ物がおいしく感じるようになりました。ジャンクフードや580円の定食を食べてもうまい。どうしたことだー、ごはんがうますぎるーと思った。
しかし副作用もあるようです。確かに・・・いくつかの副作用はありました。とはいえ、こころを立て直すと同時に、カラダも立て直す必要があるのが、うつ病ではないでしょうか。こころの面でいうと、依存心を断ち切ることが大事かもしれません。依存心があると、最悪の場合、クスリに依存してしまうことにもなる。どんなにクスリが効いたとしても、こころの問題も解決する必要があります。焦ることはありません。ゆっくり治していけばいい。
いまの時代、ふつーに生きていても辛いことがたくさんあります。だから精神科の扉を開けるのも容易くなってきている。けれども逆にそのことによって、弱者のふりをして甘えたり権利を要求するひとも増えているのかもしれません。そうであってはいけない。
老人に席を譲るように、妊婦さんを電車のなかで労わるように、軽症であるぼくのような人間は、はやく病気を治して健康になって、もっと重度のひとのために病院のベンチをあけてあげることが大事ではないでしょうか。こころとカラダの両方に気をつけながら。5月17日読了。
投稿者: birdwing 日時: 23:05 | パーマリンク | コメント (2) | トラックバック (0)