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2008年1月27日

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「とことんやれば必ずできる」原田永幸

▼Book08-003:計画力、自発力、育成力から考えるリーダーの資質。

4761262435とことんやれば必ずできる
かんき出版 2005-04-23

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派手な成功であるとか陽のあたる人生というものもありますが、ぼくが最近かっこいいなと思うのは、地道な努力を継続するひとです。他人の評価を原動力にするのではなく、自分で正しいと覚悟を決めたことについて、自律して挑戦しつづける。他力本願でもなく、無駄な批判に時間を費やすのでもなく、黙々と自分の道を究める。これがかっこいい。

同時にクールだけど熱いひとでしょうか。知的な頭のよさをもっていながら(決して高学歴であるとかMBAを取得しているとか、ということではない)、人間味に溢れている。ものすごい人脈があるというわけではなくてもいいのですが、会うとほっとする感じ。見た目は穏やかそうだけれども、あったかいひと。

というふたつの要素があれば、どんな業界からも求められるひとになるのではないか、と思いました。まさに現在マイクロソフトのCOOを勤められている樋口泰行さんであるとか、この「とことんやれば、必ずできる」という本の著者であるマクドナルドの原田永幸さんなどは、そんな理想的なリーダーだと思います。

この本は以下のような構成になっています。

第一章 短期間で成長するための自己投資術
第二章 まずは、とことんもがいてみる
第三章 「一度決めたこと」は最後まであきらめない
第四章 結果こそすべてだと考える
第五章 転機を味方につける人が勝つ

スケジューリングや結果を出すための行動術などは比較的クールに効率重視で書かれていますが、第二章ではご自身の幼い頃の体験なども書かれていて、ほろりとする。どういう話かというと、高校に入学したときに祖父に買ってもらった自転車を盗まれたのですが、警察で盗んだ少年と対面して、そいつを殴ろうとした原田さんを母親が止め、盗んだ気持ちを思いやりなさい、と叱責したとのこと。さらに、その少年に対して羊羹を差し出したそうです。

母親の教育があってこそ、原田さんの人徳もあるのだと思うのですが、そんなエピソードがあったかい。さらに、ブログにも引用しましたが、第一章では「最高齢のミュージシャンデビュー」をするために、ドラムの練習をしているとのこと。これ、いいなあ。ぼくも音楽が好きだというせいもあるけれども、経営者といっても雲の上のひとではなく、なんとなくおちゃめな(失礼ですよね)ところが感じられて、ものすごく共感を持ちました。

仕事を楽しみつつ、趣味にも全力投球する。こういうリーダーが増えると日本はもっと元気になるんじゃないでしょうか。年齢は関係ない気がして、60歳になってからピアノをきちんと習う、というようなことがあってもいい。リタイアという観念がなくても、午前中はちょこっと仕事をして、午後は好きなピアノを弾いたり読書をしたりして過ごして、ときどきは地域の学校で自分が得意なことを若いひとたちに教えたりもする。そして夕方には、ちびちびとお酒をたしなみ(あくまでも健康を損なわない程度に)、ぐっすり眠る。そんなシニアになりたいものです・・・。

と、関係ない自分の老後に夢を馳せてしまいましたが、ぼくは原田永幸さんの書かれたことを自分なりに再構成してみると、次の3点に注目すべきだと考えました。目次はまったく無視しています。あくまでもぼくの視点からの整理です。ちょっと樋口泰行さんの「変人力」の真似をしてみました(照)。

■1.計画力

「とことんやる」ためにはまず、何をとことんやるか、という企画段階が重要であり、その時点で企画の質を高めるべきであると原田さんは書かれています(P.148)。ここで重要なのは、仕事もしくは人生を俯瞰した全体思考でしょう。ここでも、まあいっかと安易に妥協するのではなくて考え抜く。「明快な答えが浮かぶまで考え続ける(P.92)」わけです。これがぼくが原田さんの書かれたことから第一に重要だと思った「計画力」です。

しかしながら机上でいくら案を練っていても、実行しなければやっていないのと同じ。そこで、「ゴールから逆算して何をするべきか考える(P.53)」という戦略的な思考とともに、「実行しながら検証してベストの結果を出す(P.44)」という思考と行動を並列処理する能力が必要です。

さらに、「1年かかることを三ヶ月で終わらせる(P.12)」というスピード重視の考え方や、「出来っこない締め切りを決める(P.144 )」というちょっと無理やりな目標管理も重要になります。

また、会社の仕事に流されないために「自分の時間をブロックする(P.18 )」や「仕事は必ず就業時間内に終わらせる(P.25)」といった視点も提示されています。後者はぼくには耳が痛い。大変だ、大変だ、と言いながら深夜残業や休日出勤までしているのですが、やり方を見直そうと思いました。企画のお仕事に就きながら、計画性がないのかもしれないなあ(苦笑)。

■2.自発力

先日読み終えた「カンブリア宮殿」にも書かれていたのですが、「変化は自ら創り出す(P.216)」という力が「自発力」。その起点としては、「自分が何を知らないのかを知る(P.126)」で原田さんがよく使われるという「We don't know what we don't know」という言葉を心に留めておこうと思いました。いつの間にか、知っているつもり(あるいは振り)をしていることが多いものです。けれども「何でも経験してやろう、吸収してやろう」という姿勢でありたい。

そして、トレンドや情報に流されない自己が大事です。「戦略は市場調査よりも、ひらめきで立てる(P.58)」は、調査データの分析などを仕事としているぼくには全面的に賛同できない部分もありますが、特に調査データでも、最近では定量的なデータよりも定性的なデータからインサイト(洞察)を見出すことのほうが重要になってきている気がします。このとき重要なのは、リサーチャーなりアナリスト(もしくはマーケッターだったりコンサルタント)の"直感"ではないか。でも直感があったとしても、自律した強さがないと意見を主張できないんですよね。

つまり、自分のしっかりとしたモノサシを持つこと、価値判断の基準を持つことがポイント。それがステップアップの決め手にもなります。またまた耳が痛いのは「健康管理ができない人は、仕事もできない(P.191)」という言葉。そうですよねー、ほんっとにそう思います。昨日、人間ドックから帰ってきたばかりですが、健康についてもきちんと留意しよう。仕事のできるひとになりたいので(苦笑)。

■3.育成力

リーダーの最終的な目的は、ひとを管理することではなく、次の世代の人材を育てることにあるのではないか、ということを痛感しました。そうでなければ企業も永続的に回転していなかくなる。年を取ってくると自分の居場所ばかり考えるようになるものだけれど、そういうシニアは結局のところ、企業の老廃物なのかもしれない(苦笑)。自分の利益だけ考えて会社に何も残さなければ、企業に貢献しているとはいえない。

「リーダーの最も重要な役割は人を育てること(P.90)」にも書かれていますが、確かに指示を出すことがリーダーの仕事であるとも思う。リーダーシップに定型がないというのもわかります。企業文化や企業の状態によって、もとめられるリーダーシップも違うでしょう。ベンチャー企業であれば、とにかくぐいぐい引っ張るタイプのカリスマ的な指導力が求められるかもしれない。

しかしやはりある程度年齢を経たときに思うのは、次の世代を育てる必要性でしょうね。「後継者作りが自分自身の発展につながる(P.219)」というのは、まさしくその通りで、それは仕事ではなくても子育てをしているときに感じます。子供に教えているつもりで、子供から教わっていることが多い。

・・・と、ついつい長文になってしまいましたが、日曜日の夜、原田永幸さんの言葉をひとつひとつ再読しながら、静かにいろいろなことを考えました。こういう時間、結構大切ではないかな、と思っています。こういうひとに自分もなりたいなあ。だいぶ年くっちゃいましたが、まだ間に合いますかね。優れたリーダーの言葉は、自分にとって最高の栄養となるようです。1月15日読了。

投稿者: birdwing 日時: 23:51 | | トラックバック (0)

2008年1月17日

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「カンブリア宮殿」村上龍 テレビ東京報道局

▼Book08-002:地道だけど斬新、変化を生み出す経営者の資質。

453216592Xカンブリア宮殿 村上龍×経済人
テレビ東京報道局
日本経済新聞出版社 2007-05-26

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企業活動において、採用や社員の教育は重要な意義があると思います。といっても、ぼくは人事でも経営企画のセクションに所属しているわけでもないので、踏み込んだ話はできないのだけれど、終身雇用制が崩壊して実力主義の社会になったとしても、だからといって年功は意味がないわけではない。オトナたちは次の世代を育てていく必要があるのではないか。

家庭を持って子供を育てるのも大事ですが、社会において若いひとを育てることも大事。育てる場所は、必ず学校じゃなきゃいけないということはないでしょう。会社だって十分に教育の場になります。というか、仕事を通じて学ぶことは学生時代の何倍もあります。

さらに、会社や学校という組織の枠組みにとらわれなくても、ブログを通して若い世代を育てることもできるはず。ソーシャルネットワークという考え方でとらえると、インターネットの登場によって時空を超えた交流もできるようになりました。ネット全体が大きな学校ともいえる。だから、どんなひともセンセイになれるし、セイトにもなれる。といっても教師になるためには、まず自分自身が教師として成熟していなければならないのですが(苦笑)。

しかしながら、ひとを育てるのはテキストによる表層的な情報ではありません。やはりひとがひとを育てる。どんな知識も、それが語られる人間があるからこそ意味を持つような気がします。テキストの向こう側に、あったかいブレインが感じられるからぼくらは学ぼうとする原動力を得られる。

反面教師というのもあり、企業の不祥事などで企業のトップが頭を下げている姿などをみると、やっちゃったなあ、あれはまずいなあ、と思う。一方で、企業のリーダーが書いた素晴らしい本などを読むと、こういうひとになりたいなあ、ちょっと努力してみるかなあ、と考えます。

どちらかというとマスコミもブログも不祥事や揚げ足取りに脊髄反射しがちですが、ぼくはむしろ後者の立場でいたい。素晴らしいひとたちの言葉に触れたい。

というわけで(うーむ、やはり前置き長すぎ。苦笑)、積極的に素晴らしいひとたちの言葉を吸収している今日この頃。樋口泰行さんの「変人力」に続いて読み終えたのが、「カンブリア宮殿」でした。この本は作家の村上龍さんが経済人と対談するテレビ番組を書籍化したものです。

以下22人の経済人との対談が掲載されています。

・張富士夫(トヨタ自動車会長)
・福井威夫(本田技研工業社長)
・大橋洋治(全日本空輸会長)
・後藤卓也(花王取締役会会長)
・古田英明(縄文アソシエイツ代表取締役)
・堀威夫(ホリプロ取締役ファウンダー)
・岡野雅行(岡野工業代表社員)
・松浦元男(樹研工業社長)
・笠原健治(ミクシィ社長)
・近藤淳也(はてな社長)
・伊藤信吾(男前豆腐店社長)
・宋文州(ソフトブレーン創業者)
・野口美佳(ピーチ・ジョン創業者)
・寺田和正(サマンサタバサジャパンリミテッド社長)
・渡邉美樹(ワタミ社長)
・吉田潤喜(ヨシダグループ会長)
・高田明(ジャパネットたかた代表取締役)
・平松庚三(ライブドアホールディングス社長)
・澤田秀雄(エイチ・アイ・エス会長)
・北尾吉孝(SBIホールディングスCEO)
・原田泳幸(日本マクドナルドホールディングスCEO)
・稲盛和夫(京セラ名誉会長)

最初のほうはさすがに伝統のある大企業の社長のお話なので、正直なところ日本経済新聞のPR記事(記事体裁の広告ですね。企業がお金を払って掲載する記事)のような感じがして、いまひとつ読むのに努力が必要だったのですが、それでも大企業のトップのふつうの姿が対談から浮き彫りにされています。そして、日本のモノづくりを代表するような岡野工業、樹研工業の話あたりから、個人的には興味を惹かれてぐいぐい読み進みました。

特に、男前豆腐店の社長である伊藤信吾さんの話が面白かった。そもそも父親が豆腐屋をやっていた、というのがきっかけかもしれないけれど、そこで豆腐を究めようと覚悟を決めたわけです。というよりご本人には、覚悟を決めたという自覚はなかったのかもしれません。次の部分がいいと思いました(P.166)。

伊藤 最初に職業を選ぶ時から、たぶんもうマーケティングは始まっていると思うんです。この業界に自分が身を置けば、ほかと違うものができるかもしれないと考える。だからその感覚はありますよね。学校を卒業する時に働きたい企業ランキングというのがあるじゃないですか。あそこに豆腐屋は絶対ない。もうそれだけは言い切れます。旅行会社に行きたい人、テレビ局に勤めたい人......。それは僕だって勤めたかったですよ(笑)。でも、学校だったり縁だったりで、入れないというのがある。「しょうがねえなあ、世の中つまんねえなあ」というところからのスタートです、僕は。

環境を選ぶのではなく、環境を創る考え方に近いと思います。企業に採用してもらうのではなく、自分で仕事を創り出していく。世のなかに合わせるのではなく、世のなかを創り出す。だから直感的によいと思えば、市場のデータなどは必要ない。

ぼくがこの本を読んでいて痛感したのは、経営者というのは、もちろん大きなビジョンを描いてはいるのですが、結構地道で、あるいはふつうであって(という言い方も微妙ですが)、いま直面していることのなかから独創的な発想をしていく、ということでした。ほら吹きではない。抽象論を振りかざす哲学者でもない。夢見がちなリアリストです。

だからどんな危機もチャンスに変えるのでしょうね。豆腐にもイノベーションはある。伊藤さんは「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」というネーミングの豆腐を作ってしまうのですが(どういう名前でしょうか、これ。笑)、豆腐なんて古い、かっこわるい、やっぱり洋食だー、と逃げるのではなく、豆腐屋である自分をしっかりと受け止めて、覚悟を決めて、豆腐でできることを考える。名前はもちろん味にも徹底的にこだわるわけです。ぼくには覚悟が足りないような気もするのですが(苦笑)、現状に足を踏ん張って逃げ出さずに続けていけば、どんなチャンスも何らかのかたちで生かせるのではないか。

ただ、やっぱり変わってるなあ、と思ったのは男前豆腐店ではみんなが、チャールズとかトムとか、あだ名で呼んでいるということでした(笑)。バンドのノリらしいのですが、「チャールズ、1番に電話ですー」「トム、あの取引どうなった?」などと社員が話していたらおかしい。あ、でも考えてみると、ネットの社会ではハンドルで呼び合うことがあるから、むしろ先端かもしれない。

同様に発想の転換の面白さを感じたのは、ソフトブレーンの宋文州さんの言葉で、「お客様は神様だ」「営業は足で稼ぐ」「営業は人柄だ」「営業はセンスだ」という日本企業の営業では古くから鉄則とされているような言葉に疑問を投げかけます。そして次の言葉に頷きました(P.184)

宋 営業の仕事は、売ることではないんです。お客さんを知ることだと思うんです。お客さんを知らなければ売れません。

次もなかなか含蓄があります。

営業は体育会系がいいと言います。「なぜ?」と聞いたら「体力があって、頭を使わないから」。それでなぜ提案ができるんですか。

大多数が考えている常識に、なぜ?と投げかける。その問いのセンスが経営者には必要なのかもしれません。自由主義社会の格差は健全というワタミの渡邉さんの言葉にも、同じような印象を受けました。渡邉さんは飲食チェーン店を起点として学校経営もされているのですが、国に教育を任せておくことはできない、として民間からの教育についても考え続けられているようです。

みずからが抱いた疑問に徹底的にこだわり、その疑問を機会に変えていく。社会に取り込まれるのではなく、自分自身が変化の起爆剤となる。マクドナルドの原田さんの次の言葉にも共感を得ました(P.334)。

原田 世の中の変化についていこうなんて、とんでもないですよ。変化についていったら負けます。トレンドをつくらなければいけないのです。

原田泳幸さんのインタビューに共感を得たので、その後「とことんやれば、必ずできる」という本を購入したのですが、この本からも多くのことを学びました。

優れた経営者の資質について、いくつか気付いた点はあるのですが、まだ整理しきれていません。行動しながら考える、という吉田潤喜さんの考え方にもヒントがあるような気がします。樋口泰行さんにも感じたことですが、優れた経営者はパワフルです。思考力を支える行動力がある。

と、この本をひとつのインデックスとして、そこからさらに気になった経営者が書いた本を読み進めていきたいと考えています。優れた経営者の言葉は、ぼくらを元気にしてくれます。それがきっと日本を元気にしてくれるのではないでしょうか。1月4日読了。

■公式サイト
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/

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2008年1月13日

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「変人力」樋口泰行

▼Book08-001:知力と情熱で現場を変えるリーダーのために。

4478000832変人力―人と組織を動かす次世代型リーダーの条件
樋口 泰行
ダイヤモンド社 2007-12-07

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火中の栗を拾うという言葉がありますが、できれば厄介なことからは逃げていたいものです。面倒臭いことは避けて、のほほんと生きていたい。

しかし、逃走しているばかりでは面倒なこともないかわりに、大きな成功や成長も望めないのではないでしょうか。瑣末などうでもいいことはともかく、ほんとうに大事な事柄に対しては、どんなに面倒や厄介であっても、しっかり受けとめる必要がある。何が起ころうとも逃げない覚悟がひとを成長させるものであり、成功に導く。

最近、経営者のインタビューをよく読むのですが、志の高い経営者の共通項として、どこか遠い場所に夢を追いかけるのではなく、与えられた仕事をきっちりと受け止め、着実にこなす上で、その延長線上に夢を描いていく傾向があるように思いました。

若いうちにはなかなかそうはいかないですね。ぼくも同様だったのですが、こんな現状に耐えられるか!どこか別の場所に行けば違うんじゃないか?(・・・辞めてやる)と思いがちです。転職するときには、どうしても現在の会社に対する不満が原動力になっている。しかしながら、地獄も天国もいま存在するこの場所にある、と思います。この世界をよくも悪くも変えるのは、自分次第ではないか、と。

リーダーに求められるものは、自己はもちろん組織を変える力です。自分も変わらなきゃならないし、変える力を組織全体に波及させていく。自己を起点とした大きな力によって、組織全体を変えていく。というドライブさせる力を考える上で、「変人力」はとても参考になった本でした。

「変人力」は、ダイエーを再生し、現在はマイクロソフトのCOOに就かれている樋口泰行さんが、ダイエー再生時代の苦労について書かれた本です。とにかく熱い。行動力ばかりでなく知力にも溢れている。読み進めていて、感動のあまり感涙しそうになった箇所もいくつかありました。素晴らしい方だと思う。

かなり辛辣に再生前のダイエーを批判しているところもあり、そのストレートさにも打たれました。度重なるリストラの再生疲れによってダイエーの社内は病んでしまっていて、問題を指摘すると自分が責任を取らされるのではないかと捉え、言い訳ばかりをしている雰囲気だったとのこと。

また、社長は大勢の取り巻きと社用車に乗る慣わしだったため、樋口さんが就任後に単身でクルマのところまで行ったところ運転手が社長と気付かなかったなどのエピソード(P,27)や、樋口さんがかつてアップルコンピュータに勤められていた時代に、梱包に少し傷があっただけで「飛行機で持って帰れ」とダイエーの担当者に業者いじめをされたことなどが書かれています。

確かにどんなによい会社であっても、その規模や業績に驕り高ぶると志が濁りますね。

これは個人にもいえることで、オレはこんなに数字をあげているんだ、どうだ、と慢心した営業は、ぞんざいになったり謙虚さにかけるようになる。管理部門であっても同様ではないかと思います。

ところが、樋口さんは非常に謙虚な方です。いちばん泥を被らなければならなかった部分を、しっかりとご自身で受け止めて、ひとりで着々と進められた。ぼくが感動したのは、まず就任直後に全店舗の店長・支配人にご自身から電話をかけたということでした。263本の電話を土日を使ってかけたそうです。当然、店長や支配人は驚きます。「どちら樋口さんですか?」などという対応がある。次の言葉にも納得します(P.74)。

実は、それまでのダイエーでは、社長が店舗に電話をかけることはほとんどなかった。かけるのは、何か問題が起こったときだけ。そのため多くの店長が、社長からの電話は不吉な知らせとして、不安と恐怖を感じていたようだ。

こんな状況下では、前向きに仕事はできないでしょう。びくびくしながら指示待ちの状態になる。

フラットな組織ということが言われますが、階層はフラットになっていても権限が委譲されていなかったり、トップが報告を待っているだけではフラットである意味がないと思います。トップが安全な場所でふんぞりかえっているのであれば、硬直したヒエラルキー型の組織と何ら変わりはない。しかし、樋口さんが自ら実行された積極的に現場とコミュニケーションをとろうとする姿勢に打たれます。

コミュニケーションの活性化というと、じゃあ会議を頻繁に・・・などということにもなるのですが、大勢の貴重な時間を割いて集まって、発言といえば一部の社員だけ、しかも単なる報告だけの会議であれば、やる必要がない。どんなに短い対話であっても、リーダーや経営者と現場がダイレクトに1対1のコミュニケーションをすることによって、現場の担当者としても、こんな末端の人間の話を聞いてくれるんだ、という喜びが生まれる。それがモチベーションの向上にもなります。

樋口さんは閉鎖する店舗にも、ひとりで訪問して挨拶されたそうです。これも凄い。ふつうは社長がここまでしないですよね。というのはやはり泥を被りたくないせいもあるし、閉鎖する店舗の社員にとっては生活がかかった問題でもあるため、きつく非難されることもある。しかし、そういう面倒さやしんどさからも逃げずに、会社の方針を説いてまわった樋口さんの姿勢に感動しました。

初期段階で「売れる売り場」をつくるために「構造改革」と「営業力強化策」を推進、具体的には次の7つの課題への対応を考えられたそうです(P.46)。

①需要喚起策(広告宣伝、キャンペーン、価格政策)
②店舗人員増強、店舗オペレーションの強化
③店舗IT増強
④鮮度の向上
⑤人材育成
⑥品揃えの拡充
⑦店舗改造(改装)と環境・メンテナンス投資
⑧現場モチベーションの向上

書いてしまうと当たり前の印象もありますが、「当たり前のことを当たり前にやる」という考えがあったかもしれません。また、もれもなく重複もなく(MECE:Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)課題が抽出されていて、コンサルティング的な思考ともいえます。そもそも樋口さんにはボストンコンサルティンググループに勤められていた経歴もあり、当然かもしれません(MECEはマッキンゼーの用語だったような気もするのですが)。

ぼくがなるほどと思ったのは、鮮度の向上に関しては、おいしい野菜を売ることに注力されている点で、ダイエーで売る野菜をフレッシュにすることが企業をリフレッシュすることにつながっている。これは非常にわかりやすい。店長としてもわかりやすいだろうし、消費者のイメージとしてもよいと思いました。

ダイエー再生における樋口さんの死闘は並大抵のものではなかったと思います。実際に、次のようにも書かれています(P.65)。

私は苦しいときに日記を書くようにしているが、ダイエー時代の日記を読み返してみると、毎回のように「苦しい、苦しい」と書いてある。その後に、「やるだけやってダメだったら、しょうがないやん。神様が見ててくれるよ。命、取られる訳やなし」と関西弁で記されている。愚痴を言うつもりはないが、本当につらい毎日だった。

誰かのせいにするわけではなく、苦しいことを苦しいと受け止め、それでも向かっていく。考えみると社長を評価するのは、株主や取引先も含めて社会という大きな世界です。「神様が見ててくれる」から、黙々と正しいことを行うのは並大抵の努力では不可能だと思うのですが、地道な継続が経営者には求められるのでしょう。

その死闘のなかで、これからのリーダーやマネージャーに必要な資質を次の3つにまとめられています。

「現場力」:現場の創意を最大限に引き出す力。
「戦略力」:人と組織を正しい方向に導く力。
「変人力」:変革を猛烈な勢いでドライブする力。

ひとつひとつを詳細に考えていきたいところですが長文化するので(苦笑)、それぞれについてぼくが最も印象に受けたことについて書いてみます。

■現場力

ここでいちばん印象に残ったのは、社長である樋口さんが閉鎖する店舗に挨拶に出向いたこと、みずから就任の電話をかけたことでした。いわゆる現場とのダイレクトなコミュニケーションです。さらに、「基本動作を徹底する」ということにも注目しました。現場における基本動作とは、簡単に言ってしまうと顧客志向であり、外部環境に目を向けるということです。社内政治などにばかり目が向くと、必然的に環境の変化が見えなくなります。事件は現場で起こっているんだ・・・ではないですが、やっぱり現場あっての仕事ではないか、と。

それから、ものすごく些細なことですが、会議中に黙っていたひとについては、会議が終了後に声をかける、あるいは何かあればメールなどでフィードバックさせるというのは素晴らしいと思いました(P.106)。黙っているひとに意見がないかというとそんなことはなく、実は熟考していることもあるものです。あるいは、考えるあまりにタイミングを逃してしまうことだってある。

また、会議ではどちらかというと声の大きいひとに流されがちですが、そんな発言は、場は盛り上がるけれども実行性の低い理想論ばかりということもある。個々のモチベーションを上げるという意味だけでなく、陽のあたらない貴重な意見を救いあげようとするきめ細かな現場への対応が参考になりました。

■戦略力

冒頭から「アカデミックな戦略論は役に立つのか」という問題を提議されています。このことについては、次の一文が答えになっていると感じました(P.118)。

つまり、戦略力を鍛えるために何より重要なのは、リーダー自身が現実のビジネスにどれだけ真剣に向き合ってきたか、どれだけ格闘してきたかにある。その要件を満たしたとき、机上の理論に「凄み」が加わる。

これは非常によくわかります。現場にいない人間が読み漁った理論で何かを語ろうとすると、どうしてもリアリティがない傍観者的な発言になる。だから、最初はどんなに幼稚であれ、自分でやってみることが大事かもしれません。やってみて失敗する。失敗から学ぶ。その繰り返しだけでも凄みは出ます。

その後、マクロの戦略観、ビッグピクチャー(全体俯瞰図)、マッキンゼーの創業者であるマービン・バウワーが考え出したFAW(Forces at Work)などの幅広い視野についての重要性が説かれながら、マクロの戦略観と現場をつなぐ「ブリッジング(橋渡し)」を重視されているところなど、説得力がありました。

一方で、ぼくも常に心がけたいと肝に銘じているのが、多様な視点の重要性です。多角的にものごとを見ることができる思考を獲得して、自分の幅を広げていきたい。このことをうまく言えないかな、ともどかしかったのですが、次の箇所で腑に落ちました(P.146)。

米国では、ビジネスパーソンの素養を現すときに「バンドウィドス(bandwidth)」という言葉が使われることがある。日本語に訳すと「帯域幅」という意味で、その人がどれくらい幅広い経験や知識を備えているかを表す言葉だ。バンドウィドスが広ければ、そのぶん処理能力は大きくなり、そこから伝達される他の機能も活性化していく。

日々貪欲に知識を吸収し、行動し続けていくことでしかないですね。帯域幅の広い人間になりたいものです。

■変人力

自分の正しさを主張すると、孤立することがあります。おまえは協調性を乱している、と非難される。

もちろん協調性は大事だと思いますが、お互いに足を引っ張り合って、行動を制限することにもなりかねません。この社内的な牽制によって、大局的にビジネスチャンスを逃してしまうこともある。であれば、たとえ孤立したとしても自分の価値判断のもとに、迅速に行動したほうがよいのではないか。もちろん企業内においては、企業全体にとって正しい(=利益をあげる)ことが優先されることが前提です。その前提を踏まえた上で、企業活動全体の利益に貢献できるのであれば、出る杭を恐れて和に甘んじることはないだろう・・・ずっとそんなことを考えていました。

ただ、それは非常に少数派の考えだと思っていたので、樋口さんの書かれたことを読んで、とても勇気付けられました。ああ、間違ってはいなかったんだ、と。日本HPとダイエーの2社の経験から、修羅場で企業を変革するリーダー像について、樋口さんは次のように書かれています。

今、こうした二つの経験を振り返って強く感じるのは、修羅場のリーダーには、オペレーションの能力以上にエモーショナルな能力が必要だということである。すなわち、周囲が何を言おうとも自分の信念を貫き通す力、底知れない執念で変革をやり遂げる力。言わば「変人力」とでも呼ぶべき力がチェンジ・リーダーに求められているのである。

日本の環境では和を尊ぶから難しい・・・などと考えてしまいがちですが、樋口さんは「ケプラーの第三法則」が日本に伝播される前に地動説を唱えていた江戸時代の麻田剛立という天文学者を引用されています。彼もまた変人扱いされていたらしい。そりゃそうでしょう。江戸時代に地球が動くなんてことを言っているのは、ぶっとんでいる。ところが彼のほうが正しかった。

しかし、変人が本当に非常識なのかと言えば、決してそうではない。むしろ、非常識なのは多数派の人たちで、後になって考えてみると変人こそが正しかったということは実に多い。歴史をひも解いてみても、そうした例は枚挙にいとまがないだろう。

むしろ問題なのは、変人になりきれないことかもしれません。信念を貫こうとすると、当然のことながら保守的なひとたちや、その目だった行動を快く思わないひとたちから誹謗中傷も受ける。そこで、やっぱやめとこうかな・・・と思って、ふつうのひとに戻ってしまう。ただ、そうやって個性を殺すことが実は組織全体の革新性を潰すことにもなりかねない。

樋口さんは変人力に必要な資質として次のふたつを挙げられています。

第一の資質「ぶれない軸を持つ」
第二の資質「異様なほどの実行力を持つ」

さらに多様性が変人力の原点であるとし、一方で「孤独な変人で終わらないために」として変人の在り方や留意点まで語られています。多少(あるいはかなり?)変人であるぼくには(苦笑)、この行き届いた配慮が非常にありがたいものでした。そして、改革をひとりの変人の孤独な活動ではなく、全社的なものにするためには、次のようにすべきであると述べられています(P.196)。

企業再生の現場で人を動かすのは、小手先のテクニックではない。魂と魂のぶつかり合いであり、気概の伝播である。その意味で、人材開発の手法として知られる「コーチング」や「エンパワーメント」とは一線を画すアプローチが求められる。。
喩えは悪いが、企業再生のリーダーシップは戦場におけるそれと同じではないかと思う。命を投げ出して戦う隊長の姿を見た兵士たちは、その姿に自然と共感して自らを鼓舞するようになると言われる。逆に、隊長の腰が引けていれば、兵士は動かなくなったり、逃げ出してしまうのではないか。

まさにそうですね。頑張っているリーダーの背中をみて、そこから立ち昇るオーラがスタッフに伝われば自ずと動くものです。逆に、安全な場所からおそるおそる指示を出すリーダーの言葉では、動かないかもしれない。知識や行動はもちろん、人を動かすときに熱意は重要な要素です。

それでは、こうした熱い思いをどこで、どうやって伝えればよいか。それは、いつでもどこでも真摯なコミュニケーションを繰り返す、ということに尽きる。資料に上手にまとめるのが重要ではなく、むしろ自分の中から自然と湧いてきた熱い思いを、自分の言葉で語り続けるということだ。借り物の考え方を棒読みするのではなく、様々な施策の根底にある思いを自分の言葉で熱心に語り続ける。そうした言葉が集まったときに、その人の哲学が相手に伝わるのではないだろうか。

樋口泰行さんの言葉にサムライを感じました。志を高く持ち、信念を貫けるよう背筋を伸ばしたいと思います。年もあらたまったことでもあり。1月1日読了。


投稿者: birdwing 日時: 22:50 | | トラックバック (1)

2007年11月26日

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「進化しすぎた脳」池谷 裕二

▼人間味にあふれる文体、新しい科学のスタイル。

4062575388進化しすぎた脳 (ブル-バックス)
池谷 裕二
講談社 2007-01-19

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「進化しすぎた脳」は主として脳の海馬について研究されている池谷裕二さんが、中高生と脳の働きについて縦横無尽に語る本です。シナプスの働きのような生物学な分野から、心とは何か、意識とは何か、という哲学的な分野、なぜ脳を研究するのかという科学者の社会的意義まで、内容はとても幅広い。

あまりにも長いこと読んでいたので(苦笑)、前半はまったく忘れてしまったのですが、まず内容とまったく関係なく、この文体はいいな、と思いました。親しみやすい。というのは、中高生との対話で構成されているからなのですが、話をする口調に限りなく近い。「あはは」なんて笑いも書かれている。

えーとですね、当初からぼくはブログをそういう文体で書きたいと思っていました。だから「です」「ます」調も無視してめちゃくちゃだし、なるべく話し言葉に近い書き言葉で綴るように意識しています。古い美文至上主義のひとには怒られるかもしれないけれど、ぼくは逆にブログの新しいスタイル(=文体)を作りたい。

そこで気付いたのですが、基本的にぼくは創作的な文章を書きたいのではなく、読んでいるひとと対話したかったのではないか、と。まったく本の内容とは関係ないそんな自己分析をして、実は自分の書いたことに自分で、そうだったのか!と驚きを隠せないのですが。そうだったのか?まあいいか。

ほんとうにアタマのよいひとは難しいことをやさしく語れるひとである、とぼくは思います。そして、曖昧なことを曖昧に享受できるゆとりのあるひとだと思う。

凡人であるぼくらはときとして、どーでもいいことに拘りがちであり、曖昧なことを明確にしたがる。しかしながら、アタマのいいひとは、それやっても無駄でしょ?ということをさらりと言ってのけるものです。わかったようなふりをしたり、あっちこっちから権威的な何かを引用するひとは実はあまり頭がよろしくなくて、それはわかんないでしょ、と無知を無知として認めてしまえるひとのほうが賢い。

なので、最先端の脳科学を紹介しながら、わからないことはわからないとはっきり言う池谷裕二さんはとてもアタマがいいと思う(笑)。

そもそもどんな学問も実験室のような場所で隔離して行うようなものではないし、なぜその学問をやるのかという動機はとても個人的なものです。科学者と言われるひとだって、好きでやっていることもあるだろうけど、オレこれやって何になるのかな・・・という悩みもあるでしょう。

ぼくがこの本に親近感を覚えたのは、そんな「ゆらぎ」が感じられたからです。おれの説が絶対だ!この理論は完璧だ!おまえらはおれの言うことに従っとけ!という、いわゆる教壇の上から見下ろす俺様的な先生のスタンスではなく、きみはどう思う?というフランクな姿勢に、次の科学を担うリーダーを感じました。

「手作り感覚こそが科学の醍醐味(P.334)」という章もあるのですが、なにか絶対的な科学の答えがあって、それを解明することが科学の使命であれば、ぼくら人間はその大きなものに従うだけのちっぽけな存在にすぎないような気がします。しかしながら、この本を読んで痛感したのは、個々人が科学を作り上げていくんだという感覚が大事で、だからこそ科学に関わることの意義も感じられるということです。やっぱり歯車はいやでしょ、たとえ科学者であっても。

歴史は変えられる、真理は改められる、という感覚は、ちょっと怖い気もするのだけれど、先がみえない感じがいいと思うんですよね。だいたい会社でも、過去の実績にこだわりすぎることがある。数年前に作った企画書のページを持ってきて、これ使うべきだなんて主張するひとがいる。時代が変わっているのに、まだ権威が通用していると思っていると、そんな硬直したアタマこそが進歩発展のお荷物になっていく。

と、本の内容に関わっているんだか外しているんだかまったくわからないことを書いていますが(苦笑)、報酬系とか、「あいまい」だからこそ役に立つという視点だとか、知識というより考え方に惹かれるキーワードがたくさんありました。

ただ、やはりぼくはその知識のひとつひとつを拾うのではなく、全体として、この本から元気をもらった、ということを感想として書いておくことにします。そういう読み方もあっていいんじゃないでしょうか。

おまえは池谷裕二の何を読んでいるのだ、と言われたらそれまでですが、ぼく科学者じゃないし、文系だし(笑)。しかし、科学者ではないのだけれど、ぼくとはまったく違う世界で脳について研究している新しい科学者のスタイルに刺激を受けたし、尊敬するなあと思った。喝采を贈りたいですね。

ところで、ぼくの父は脳の血管が破裂して半身不随になり、シャントという管で脳のなかに溜まった血を外に排出する手術をしたものの、リハビリの時期を待つこともなく亡くなりました。医師に呼び出されて脳のレントゲンの説明を受けているとき、ぼくは目の前の脳の写真を見ていたのだけれど、まったく見れていなかった。医師の言葉も聞こえているようで、まったく聞いていなかった。

先日、父の七回忌を済ませました。脳科学の本を読むとき、ぼくは少しだけ亡くなった父のことを思い出します。教師であり、頑固な父でした。

老いていくことはどうしようもないのかもしれないけれど、脳の手術であるとかアルツハイマーに関する研究がすすめば、もう少しだけぼくらは大切な誰かと、かけがえのない時間を過ごすことができるようになると思います。だから、期待しています。これから脳科学を研究する科学者のみなさんに。

投稿者: birdwing 日時: 23:36 | | トラックバック (1)

2007年11月24日

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「佐藤可士和の超整理術」佐藤 可士和

▼アートディレクターの空間・情報・思考の整理術。

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佐藤 可士和


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最近のオフィスはフリーアドレス制を導入しているところも増えているようです(フリーアドレスについての解説はWikipediaの「フリーアドレス」で)。

フリーアドレスのオフィスでは、決められた席がありません。モバイル環境でノートPCを使えば、配線に煩わされることなく自由に仕事ができる。帰るときには明日ここに座るひとのために机の上には何も残せないので、非常に整備されると思います。ただ、日本的な企業においては、どこに座るかについて縄張り争いも生まれそうな気がしているのですが、いかがなものでしょう。

えーと、オフィスで大量の資料を積み上げているぼくからは想像できない世界です(苦笑)。席替えすることになると、いつも大変なことになっています。ついでにいうと、自宅もひどいことになっている。

ほとんど物置きになっている部屋は、積み上げた本の雪崩が頻繁に勃発して、CDはすでにラックからはみ出して平積み状態。子供たちのためなのか自分のためなのかわからない食玩とかガチャポン玩具も大量にあって困惑しています。なんとか活用できないかと思って、ブログで使ってみたりしたのですが、さすがにこれは整理しなくては、という状況です。

そんなわけで「佐藤可士和の超整理術」です。特に整理術の本を探していたわけではなくて、きっかけはデザイン系の著者の本を読みたいと思って本屋をうろついていたときに発見したのだけれど、PCのデスクトップやモノの整理だけではなく、思考を整理するという観点に惹かれました。

どちらかというとモノの整理は簡単で(ある意味、捨てちゃえば全部片付く。というぼくは捨てられないので簡単ではないのだけれど)、それよりも複雑に絡み合った課題を整理する方法のほうが大変です。仕事で重要なスキルでもあり、この部分を興味深く読みました。

実は書かれていることはそれほど目新しいことはないな、と生意気にも思ってしまったのですが、確かに内容は整理されている(笑)。そりゃあ整理術の本の内容が整理されていなかったらお話にならないですよね。真っ白な装丁のように、シンプルですかっとした印象を受けました。

何でもないシンプルなデザインですが細部が計算されていて心地よい。それが良質のデザインかもしれません。

誰でもできそうなんだけど、実はできない。奇抜なものを作るのがデザインではなく、奇抜な何かを削ぎ落としたところにデザインはあるのかも。この本もそんな感じでしょうか。とはいえ、もうちょっと感覚的にぴぴっとくるような視点があると嬉しいと思いました。深澤直人さんの本などには、そんな思考を揺さぶる刺激があったので。

空間の整理術、情報の整理術、思考の整理術のように展開されているのですが、1.情報把握、2.視点導入、3.課題設定というプロセスをチャート化しつつ、キリンの極生、明治学院大学のブランディング、国立新美術館のロゴデザインなど、佐藤可士和さんの実際の仕事の事例を引用しながら整理方法を解説しています。

最終章でまとめられているのですが、この言葉にすべてが整理・集約されているようにも思います(P.210)。

空間の整理:整理するには、プライオリティをつけることが大切
情報の整理:プライオリティをつけるためには、視点の導入が不可欠
思考の整理:視点を導入するためには、まず思考の情報化を

そして次のようなポイントが挙げられています(P.214)。

■空間の整理
・定期的にアップデートする
・モノの定位置を決め、使用後はそこに戻す
・フレームを決めてフォーマットを統一する

■情報の整理
・視点を引いて客観視してみる
・自分の思い込みをまず捨てる
・視点を展開し、多面的に見てみる

■思考の整理
・自分や相手の考えを言語化してみる
・仮説を立てて、恐れず相手にぶつけてみる
・他人事を自分事にして考える

このポイントのうち、特に納得したのは思考の整理における「他人事を自分事にして考える」ということでした。だいたい「他人事を他人事にして考える」か「自分事を自分事にして考える」ものです。ひょっとすると「自分事を他人事にして考える」無責任なスタンスだったりもする。

書店で立ち読みしてぐぐっときたのは、冒頭の部分で佐藤可士和さんが「アートディレクター=ドクター」という比喩を使われて、次のように書かれていたからでした(P.29)。

なぜなら、答えはいつも、自分ではなく相手のなかにあるからです。それを引き出すために、相手の思いを整理するということが、すごく重要になってくるのです。

これは、わかる。ものすごくわかるなあ。営業にしても企画にしても、自分を売り込む能力が必要だと思うじゃないですか。ところがかなりそうではなくて、相手のなかにあるもやもやとした思いをカタチにできるかどうかが重要です。だから、自分で勝手に描いたソリューションを押し売りしても、相手にとってはメイワクにしか思えないこともある。

整理のプロとしては、自分の思考が整理できることはもちろん、相手の思考を整理してあげられることが重要になるのかもしれないですね。

相手の思考を整理するためには、個人的な感情を一度捨ててすっきりしなければならないし、多面的な角度からみる必要もあります。そして多面的な思考のためには、経験値も必要だし、知識や絶え間ない学習も必要になる。もちろん過剰な情報に惑わされていたら整理できないので、そこで情報を取捨選択捨する技術も重要になる。

なぜ、捨てるのか、という言葉も考えるものがありました。次を引用します(P.213)。

でも、決して“捨てる”ことが目的なのではありません。あくまでも手段なのです。「何のために捨てるのか?」といえば、本当に大事なものを決めるため。そして、大事なものを、より大切に扱うためなのです。

うーむ。そうだなあ。確かにぼくは最近、何が大事なのか、ということをよく考えるのですが、大事なものを守ってより大切に扱うためには、いくつかの何かを捨てなければならないこともあるものです。

もちろん人生はそれほどシンプルではなくて、大切なものは複数あって、その複数の大切なものを維持するためにはかなり大変だったり整理できない気持ちに悶々ともするのですが、人生、整理の連続なのではないのかな、と思ったりもしています。簡単に整理できちゃうようであれば、それはそれでつまらないのではないか、と。11月3日読了。

投稿者: birdwing 日時: 00:04 | | コメント (2) | トラックバック (0)