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2006年12月 2日

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シャイン

▽cinema06-075:繊細なピアニストと、父子の物語。

B000244RLMシャイン [DVD]
ジェネオン エンタテインメント 2004-06-25

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泣けた。ピアニストを主人公とした映画には残酷で切ない物語が多いのですが、この映画もやりきれない感情を抱いてしまう作品でした。デヴィッド・ヘルフゴットという天才ピアニストの実話をもとにした作品で、それが現実の物語であることがさらに痛切です。

デヴィッドは、厳しい父親から虐待まがいの英才教育を受けます。なぜ父親がそんなにスパルタなのかというと、幼い頃にお金を貯めて購入したバイオリンを父に壊されたトラウマがあり、音楽に対する屈折した感情を息子にぶつけている。コンテストで優勝すること、おまえは運がいい、という言葉を何度も息子に繰り返し言わせる。その教育のおかげで彼は才能を発揮しはじめるのですが、世間から注目されて奨学金など上級の教育を受けることができるチャンスが得られるようになると、今度は父親は息子を束縛して圧力をかけて潰そうとする。父のエゴに押し潰されそうになりながら、彼は音楽的な才能を磨き上げていくのですが、その精神的な歪みから精神病を発症してしまう。子供を破壊する親のエゴに憤りを感じるとともに、子供もやはりひとつの人格である、ということをあらためて考えました。

ロンドンの王立音楽学校で学ぶときに、楽譜を解釈して感情をのせなさい、という指導を受けて、でも楽譜に感情は書かれていないですよね、という風に応えたデヴィッドが印象的でした。彼は父親の権力下におかれていたので、自分の感情を表現することさえおどおどと頼りない。結局のところ、その気持ちがオーヴァーヒートして精神を蝕んでしまうのですが、精神病で饒舌になった彼の方がむしろ純粋に生き生きとしていて、演奏はもちろん人間的にも親しまれる感じです。

恥ずかしながらクラシック音楽はほとんど無知で、ラフマニノフなんて聴いたことがなかったのですが、この映画でピアノ協奏曲第3番を聴いて泣けました。演奏中に、あまりに集中するあまりに頭が空白になる映像は迫力があります。ピアノの演奏がすべて素晴らしい。と思ったら、ヘルフゴット自身の演奏とのこと。純粋であることは弱さも露呈するものですが、そんな弱さにも心に滲みるものがあります。強くなれなくても、いいと思う。12月2日鑑賞。

*年間本100冊/映画100本プロジェクト進行中(86/100冊+75/100本)

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2006年11月 5日

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草の上の月

▽Cinema06-070:実話に基づいた、古めかしいけれども純粋な物語。

B0009RJENI草の上の月 [DVD]
マイケル・スコット・マイヤーズ
ケイエスエス 2005-07-22

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ものすごく古いスタイルのラブストーリーで、ずいぶん昔に作られたんだろうなと思ったのですが、そうでもなかった(1996年)。冒険小説の作家ボブ(ビンセント・ドノフリオ)と、教師のノーベリン(レニー・ゼルウィガー )の恋愛ドラマです。

ボブは作家だけにちょっと変わっていて、人付き合いが悪く、病弱な母のためにマザコン気味でもある。小説の話ばかりしていて嫉妬深くもあり、どこか子供っぽい。しかしながらさすが小説家だけあって、言葉で場を演出する力はある。夜のドライブで、彼が書いた冒険小説の主人公「コナン」の物語を語る彼には(ビンセント・ドノフリオの演技力もあるかと思うのですが)迫力がありました。一方で、ノーベリンは作家をめざしていて彼に興味を抱くのですが、良識があり、向上心もある。ボブは正反対です。そもそも押し付けがましい。自分の創作方法を彼女に押し付けて、さらに彼女が書こうとしている作品を鼻で笑うボブは、嫌なやつだなと思いました。けれども世のなかには、そういうひとって、かなりの割合でいるものです。

このふたりは強く惹かれあうのですがうまくいくはずもなく、喧嘩ばかりをしている。喧嘩ばかりしているのだけど、そのあとにふわーっというストリングスの明るいメロディが流れて和解してしまう。その単純な展開の繰り返しに、正直なところ、なんだかなーという気がしたのですが、あまり盛り上がりもしないもの、こういう伝統的な恋愛もあるだろうな、という世界がつづいていきます。そして最後。こう終わっちゃうのか、と思いましたが、これもまたそうだろうな、という感じです。ぼくはとりあえず最後に泣けましたが、「その日のまえに」ほどではないですね。11月4日鑑賞。

*年間本100冊/映画100本プロジェクト進行中(75/100冊+70/100本)

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2006年10月22日

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いつか読書する日

▽Cinema06-065:哀しい大人の恋、生きる強さ。

B000E0VPM8いつか読書する日 [DVD]
青木研次
アミューズソフトエンタテインメント 2006-02-24

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主人公・大場美奈子が中学時代に作文を書くシーンからはじまります。鉛筆と原稿用紙のアップに、なんだか懐かしいものを感じました。いまはほとんどパソコンで文章を書きますが、アナログの原稿用紙もいいものです。

物語は、大場美奈子(田中裕子さん)が50歳に近い年齢になった頃のことで、彼女はまだ独身で、牛乳配達とスーパーのレジのパートで暮らしている。一方で彼女が想いを寄せている高梨塊多(岸部一徳さん)は、病床の妻を看病しながら市役所の児童課に勤めています。美奈子と塊多はともにお互いのことを想っているのだけれど、塊多の父と美奈子の母が不倫しているときに自動車にはねられて亡くなってしまったため、お互いの気持ちを封印して生きているわけです。しかし、病床の妻は塊多の気持ちに気付き、自分が亡くなったら、塊多と美奈子はいっしょになるように、と諭す。

淡々と進行していって、どこか小津安二郎さん的な世界も感じたのですが、視覚表現としての文字の使い方に面白いものがありました。痴呆症になっている大場美奈子の母の知人の夫が文字を思い出せなくて悩むシーンや、「私には大切な人がいます。でも私の気持ちは絶対に知られてはならないのです」という縦書きの文章が画面にオーヴァーラップするところなど。また、さびしく50歳までひとりで生きてきた美奈子の部屋には本がたくさん並んでいるのですが、そんな演出に、製作者の文学に対する思い入れのようなものを感じました。

塊多が、市役所にクレームをつけにきた老人に「50歳から80歳までって長いですか」と訊くと、「なげーぞー」と答えるシーンが印象的でした。また、いつも静かな塊多が、児童保護をしなければならない、いい加減な親に対して激しく怒り、そのあと号泣するシーンもよかった。

ところで、50歳の恋愛というものがどういうものなのか、ぼくには想像できないのだけど、そういう恋愛というのもあるだろうと思うし、もし自分たちの気持ちを長い間封印してきたのであれば、激しくて短い恋愛よりも醸成されて思いは深まるのではないかとも考えました。

最後のシーンでは、え?そういう風になっちゃうのか、と哀しくなった。でも、淡々としたストーリーのなかで、この展開はうまい。すとん、と落ちる感じがある。哀しい出来事の後の力強さにも、すがすがしいものがありました。派手な名作ではないと思うのですが、ドラマとしては染みるものがありました。10月22日観賞。

公式サイト
http://www.eiga-dokusho.com/

*年間本100冊/映画100本プロジェクト進行中(71/100冊+65/100本)

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2006年9月10日

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シリアナ

▽cinema06-053:全体を静かに覆う社会の不条理と、ちっぽけな人間のかなしみ。

B000QUU83Sシリアナ [DVD]
スティーブン・ギャガン
ワーナー・ホーム・ビデオ 2007-07-13

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石油をめぐって企業や過激派などの動きが絡みつつ、その大きな社会の陰謀や策略のなかに巻き込まれていく人間たちを描いた映画です。ジョージ・クルーニーが出演しているので、「トラフィック」や「スリー・キングス」などを重ねてしまうのですが、スティーブン・ソダバーグ監督が総指揮をとって「トラフィック」のチームでつくった映画のようです。なるほど、こまかく揺れ気味の映像とか、ちょっと引き気味で撮影する感じとか、社会的なテーマとか、確かにソダバーグっぽい気がしました。

サスペンスによくあるように、さまざまな登場人物と複雑な伏線を辿るのが困難なのですが、最後で腑に落ちます。子供がプールの事故で亡くなるシーンなど、淡々と描かれているのだけど、それが逆に哀しい。とはいえ、ぼくは拷問のシーンが苦手で、反対勢力に捕まったボブ(ジョージ・クルーニー)の爪を剥ぐシーンは、正視できませんでした。ドキュメンタリーっぽい全体の雰囲気のなかでそこだけが刺激が強すぎて、逆に浮いてしまった感じがする。なんとなく平坦につづく物語なのですが、観終わるとずーんという感じで重い何かが残ります。ただ、最近映画から遠ざかっていたのですが、リハビリのためにはもう少し軽い映画がよかったなあ。9月10日鑑賞。

*年間本100冊/映画100本プロジェクト進行中(66/100冊+53/100本)

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2006年8月19日

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Jam Films 2

▽cinema06-052:短編のなかに人生を詰め込む秀逸さ。

B00064X9P8Jam Films 2 [DVD]
アミューズソフトエンタテインメント 2004-12-24

by G-Tools

以前、Jam Filmsを観たことがあったことと、先日ショートフィルムを借りてみたところなかなか面白かったので、オムニバス形式の作品をまた借りてしまいました。長編の場合には腰を落ち着けて観なければならないのですが、軽い気持ちで空き時間をみつけて楽しめることがショートフィルムのよさかもしれません。3本の作品が収録されているのですが、ぼくがいちばん気に入っているのはMr.Childrenの曲から構想を得たという4作目「FASTNER」です。空き地で少年と少女がキスをするシーンから、病院で息をひきとるおじいさんのシーンまで、ひとの一生とは何か、ということをテツガク的に深く考えさせてくれる映画で、「2001年宇宙の旅」のスタンリー・キューブリック監督的なものも感じさせます。ちょっとじーんときました。

1作目「机上の空論」では、まず通販番組的というか、日本人の恋愛ノウハウについてのめちゃめちゃなマニュアル映像があって、その実践編というカタチで映画が展開されます。マニュアル通りにはいかない結末がなかなか笑えました。2作目「CLEAN ROOM」は、映像が美しい。父を亡くしたことで無菌室から出られなくなる少女の話ですが、深みのある映像の色調がよいと思いました。3作目「HOOPS MEN SOUL」では、須賀貴匡さんが出演されていて、おお「仮面ライダー龍騎」のひとだ!と懐かしく思いました。「仮面ライダー龍騎」は長男とよく観ていたのですが、13人ものライダーが出てくる異色作です。それにしても須賀さんは龍騎のまんまの演技だなあ、と思いました。8月12日鑑賞。

公式サイト
http://www.jam-films.com/2/

*年間本100冊/映画100本プロジェクト進行中(58/100冊+52/100本)

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