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2009年6月 7日

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1Q84、読中ライブ。

村上春樹さんの新しい長編小説「1Q84」。いきなり前触れもなく5月28日、書店にどーんと平積みされていてびっくりしました。

41035342221Q84 BOOK 1
村上春樹
新潮社 2009-05-29

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41035342301Q84 BOOK 2
村上春樹
新潮社 2009-05-29

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アイキューかとおもったらイチキューハチヨンだった、ということに気付いてにやり。どうしようかなあと迷ったのですが、翌日、買ってしまえーということで2冊まとめて購入。まさにミーハーですが、やはり彼の作品はまとめて読みたい。現在では品切れの書店も多いらしいとのこと。よかった。

柴田元幸さん責任編集の「モンキービジネス」には、忘れかけていた頃に小説を発表すると買ってくれる読者がいる、そのタイミングが大事、という策略的な村上春樹さんのインタビューも掲載されていて、うーむ、彼の思惑にやられたか?とも感じました。とはいえ、ほぼ全作品を読破した自分としては、やっぱり春樹さんの作品に触れられるのがうれしい。

4863321414モンキービジネス 2009 Spring vol.5 対話号
柴田 元幸
ヴィレッジブックス 2009-04-20

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ほんとうは読み終えてから読後感を総括して書きたいところですが、読んでいる途中に忘れてしまいそうです。そこで読中ライブとして、感じたことなどをつれづれに書き綴ってみたいと思います。現在は1冊目の第12章、P.278まで読み進めています。もし、まっさらな気持ちでこの作品を読みたいひとがいれば、以下は読まないようにしてくださいね。

「1Q84」は、青豆(アオマメ)と天吾というふたりの主人公の物語を、交互にチャプターとして展開されていきます。という構成でよみがえったのは、ひと晩で読破した「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」でした。

4103534176世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
村上 春樹
新潮社 2005-09-15

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映画にも(たとえば「バベル」など)複数の物語が平行して絡み合いながら進行するものもありますが、今後どのように重なっていくのでしょう。楽しみです。

映画のことに触れましたが、読み始めた第一印象は映画的であるということでした。流れるようなストーリー展開のなかで、場面がいきいきと描かれています。流暢な文章もさることながら、視覚的にぐいぐいと引きこまれる。青豆(アオマメ)は女性の殺し屋で、冒頭では渋滞の高速道路でタクシーを乗り捨てて地上に降りる。このシーンがとてもビジュアルとして鮮明でした。

青豆のイメージとしては、なぜかスティーブン・ソダーバーグ監督の「エリン・ブロコビッチ」のジュリア・ロバーツを思い浮かべたのですが、どちらかというと殺し屋のシチュエーションとしてアンジェリーナ・ジョリーあるいはミラ・ジョヴォヴィッチといったところでしょうか。ただし、青豆のスタイルは短い黒髪に貧乳なので、ちょっと違うかも。

エリン・ブロコビッチ コレクターズ・エディション [DVD] ウォンテッド リミテッド・バージョン [DVD] バイオハザード〈廉価版〉 [DVD]

青豆と天吾というタイトルから、ぼくはジャックと豆の木を連想しました。いままで村上春樹さんの作品では井戸に降りるという表現が暗喩的に使われてきたのだけれど、高速道路から地上に降りた青豆もそんな他の春樹作品のシーンに重ね合わせることが可能かもしれません。

一方、天吾は予備校教師で小説を書いています。とある新人賞の下読みをしているときに「空気さなぎ」という作品に出会い、編集者である小松にプッシュする。「空気さなぎ」は、ふかえりという十七歳の少女が書いた小説です。小松はこの作品を天吾にリライトさせて、芥川賞を狙おうと画策する。

ふかえりは疑問符なしに平坦に喋るような不思議な少女なのですが、その会話はひらがなとカタカナを中心に表記されます。ぼくは以下の場面を読んでいて不覚にも涙が出てしまいました。どーでもいいようなシーンなのですが(P.87)。

「君は数学は好き?」
ふかえりは短く首を振った。数学は好きではない。
「でも積分の話は面白かったんだ」と天吾は尋ねた。
ふかえりはまた小さく肩をすぼめた。「だいじそうにセキブンのことをはなしていた」
「そうかな」と天吾は言った。そんなことを誰かに言われたのは初めてだ。
「だいじなひとのはなしをするみたいだった」
「数列の講義をするときには、もっと情熱的になれるかもしれない」と天吾は言った。「高校の数学教科の中では、数列が個人的に好きだ」
「スウレツがすき」とふかえりはまた疑問符抜きで尋ねた。
「僕にとってのバッハの平均律みたいなものなんだ。飽きるということがない。常に新しい発見がある」
「ヘイキンリツはしっている」
「バッハは好き?」
ふかえりは肯いた。「センセイがいつもきいている」
「先生?」と天吾は言った。「それは君の学校の先生?」
ふかえりは答えなかった。それについて話をするのはまだ早すぎる、という表情を顔に浮かべて天吾を見ていた。

バッハの平均律、いいですよね。癒されます。

■J.S.バッハ / 平均律クラビーア曲集第1巻第1番


この音楽の美しさは数学的といえるかもしれない。

ところで、編集者が作家の作品にリライトをかけて別の作品といえるまで精度をあげていく、という設定から思い出したのは、レイモンド・カーヴァーと編集者ゴードン・リッシュのエピソードでした。村上春樹さん編訳の「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」に収録された「誰がレイモンド・カーヴァーの小説を書いたのか?」というD・T・マックスによる文章です。

4124034970月曜日は最悪だとみんなは言うけれど (村上春樹翻訳ライブラリー)
村上 春樹
中央公論新社 2006-03

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リッシュはオリジナル原稿の半分まで削除することもあったらしい。しかし、その結果としてカーヴァーのセンチメンタリティーは刈り取られて、洗練された作品になった。どこまでが作家のオリジナルなのか、という問題にも関わるのかもしれません。メイキングのように、村上春樹さんはこの表現で小説作法の舞台裏を解説している。あるいはゴーストライターなどが暗躍して売れる小説をプロデュースする商業的なシステムに対する批判かもしれません。柴田元幸さん責任編集の「モンキービジネス」の対談に、やんわりと文壇批判が書かれていたことも思い出しました。

天吾が「空気さなぎ」を書き直す過程は、まさに村上春樹さんが小説を推敲する過程にかさなるのでしょう。部屋のリフォームのメタファで描写しているのですが、以下は非常によくわかる(P.127)。

内容そのものには手を加えず、文章だけを徹底的に整えていく。マンションの部屋の改装と同じだ。基本的なストラクチャーはそのままにする。構造自体に問題はないのだから。水まわりの位置も変更しない。それ以外の交換可能なもの――床板や天井や壁や仕切り――を引きはがし、新しいものに置き替えていく。俺はすべてを一任された腕のいい大工なのだ、と天吾は自分に言い聞かせた。決まった設計図みたいなものはない。その場その場で、直感と経験を駆使して工夫していくしかない。
一読して理解しにくい部分に説明を加え、文章の流れを見えやすくした。余計な部分や重複した表現は削り、言い足りないところを補った。ところどころで文章や分節の順番を入れ替える。形容詞や副詞はもともと極端に少ないから、少ないという特徴を尊重するにしても、それにしても何らかの形容的表現が必要だと感じれば、適切な言葉を選んで書き足す。

と、そんな風に久し振りの村上春樹さんの小説を楽しんでいるのですが、1冊目の200ページほど読み進めたときに、漠然とぼくのなかに浮かんでくる感情がありました。

村上ファンなら黙殺して絶賛するかもしれません。熱烈なファンは盲目的であり、ブームやトレンドに流されるひとにとっては、品切れになるような作品には自覚なしに無償健で褒め称えて傾倒する場合もありますから。しかし、ぼくはあえて感じたことをストレートに批判してしまおうと思います。こういうことです。

リアリティが、なさすぎる。
「1Q84」には、ブンガク的な深みがないのでは?

村上春樹さんの小説の問題ではなく、読者であるぼくの問題かもしれません。いろいろなことを深く考え詰めている状態の自分には、なんだか希薄なさらさらとした物語に読めてしまって、つかみどころがない。おとぎ話の世界、ファンタジーのようです。

エンターテイメントや概念的な引っかかりとしては面白い。しかし、なんだか出来の悪いハリウッド映画を観ているような印象がしてきました。VFXやCGは手が込んでいる、脚本はテンポがよくてスリリングなのだけれど、はぁ楽しかったーで終わってしまうような。村上春樹さん的なウィットの効いた表現も、どこか白けてしまう。大袈裟な気がします。殺し屋という設定などは、石田衣良さんの小説だったらよかったのに、などと思いました。

もちろん「海辺のカフカ」で取り上げられていたトラウマのような、深いこころの闇が語られようとしているということは感じられます。けれどもそれですら表層的に感じる。ほんとは苦しんでないでしょ、ポーズでしょ、のような醒めた感覚が否めません。

エルサレム賞の授賞式に出席したときに、ぼくらは卵であるというような表現をされていましたが、卵を割ってみたら何も出てこないような印象を感じました。殻は立派なのだけれど中身がない。失礼ですが。

この失望感がどのように変わっていくのか。まだ、全作品の4分の1を読み進めた段階であり、決定的な感想は言えません。けれどもいま感じたことを、正直に書きとめておくことにします。

投稿者: birdwing 日時: 09:24 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年3月 7日

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本とか音楽とか、雑記。

午前中には青空がみえて日差しも明るい土曜日でしたが、午後になると雲が多くなりました。散歩に行こう!と誘ったところ子供たちにそっぽを向かれてしまったので、おとーさんはひとりで近所を散策。と、いつの間にか電車に乗って隣りの駅の本屋まで行ってしまった。目的もなく、あちこち彷徨いながら、とりとめのない思考をめぐらせました。

雑記というタイトルはいかがなものか、と思うのですが、まとまらない現状を書きとめておきたいと思います。そういう意味では日記的といえるでしょうか。日々の断片です。

■進まない読書のこと。

本は、これを読んでいるのですが、遅々として進まず。

4309463150大洪水 (河出文庫)
望月 芳郎
河出書房新社 2009-02-04

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ノーベル文学書作家、J.M.G.ル・クレジオの代表作のようです。言葉の大洪水だ。氾濫するイメージに押し流されます。かなり本腰を入れて読まないと読めない作品なので苦戦しています。まだ第一章に辿り着けないのですが(とほほ)、実験的な表記もあり、小説というより詩的な言語のきらめきがあります。

文庫の紹介には次のように書かれています。

万物の死の予感から逃れ、生の中に偏在する死を逃れて錯乱と狂気のうちに太陽で眼を焼くにいたる青年ベッソン(プロヴァンス語で双子の意)の13日間の物語。

何か得たいの知れない言葉の力を感じています。ちなみに文庫のカバーに紹介されていたのですが、G・バタイユの次の2冊も気になる。

4309462464空の青み (河出文庫)
伊東 守男
河出書房新社 2004-07-02

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4309462278眼球譚(初稿) (河出文庫)
Georges Bataille 生田 耕作
河出書房新社 2003-05

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気になる本は保留にしておき、読みかけの本が多数あるにもかかわらず、今日も本屋めぐりをして、これを買ってしまいました。

美しい時間 (文春文庫)
美しい時間 (文春文庫)小池 真理子

文藝春秋 2008-12-04
売り上げランキング : 58163


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贅沢に余白を使ったレイアウトと、挿入される美しい絵。これなら肩の力を抜いて気軽に読めるかも。難しい本に取り組むのもいいのですが疲れるので(アタマも眼も)、息抜きの本も大切だと思います。ついでに、これも購入。

4901429833世界のトップリーダー英語名言集 BUSINESS―夢を実現せよ、人を動かせ、創造せよ (J新書)
David Thayne
Jリサーチ出版 2009-01

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大切な言葉は、ある程度文章を費やさないと語れないものでしょう。しかし、だからこそ、言葉を大胆に削ぎ落とした、格言のようなシンプルな言葉は力をもつ。ビル・ゲイツ、ピーター・ドラッカーなどビジネスの一人者が語った言葉を英文、翻訳で収録。さらにCD付きというのがうれしい。

座右の銘というものをもたない自分ですが、気に入った言葉があれば、英文+日本語で心にとめておこうと思います。CDなら読まなくても、聴くことができるのもいい。

■ジャズ的な、けれどもポップな音楽。

音楽では、先週は会社の帰りに久し振りにCDショップで試聴めぐりをしました。北欧エレクトロニカにも惹かれるものはあったのだけれど、最近はどちらかというとジャジーな雰囲気になりたい。というわけで、ジャズかどうかというと疑問なのですが、このアルバムを購入しました。

B001O2HLC8ノーバディーズ・チューン
ウーター・ヘメル
P-Vine Special 2009-03-04

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オランダのポップ・ジャズのシンガーとのこと。洋楽のコーナーとジャズのコーナーでともにプッシュされていたので、売れ筋なのかもしれません。1枚目は聴いたことがないのだけれど、このアルバムの1曲目を聴いたとき、ドノヴァンというか、何か懐かしいポップスの感じがしました。

ぼくが購入したアルバムに収録された曲ではありませんが、以下YouTubeからプロモーションビデオです。

■Breezy - official video

休日にリラックスして聴くにはいい感じ。しかし、全曲を聴いているとちょっと甘ったるいので、本格的なジャズヴォーカルのアルバムを聴きたくなりました。

もうひとり、やはりオーガニックな感じがして気になったのは、台湾生まれでNY育ちの女性シンガー、ジョアナ・ワンでした。台湾のノラ・ジョーンズなどというキャッチがありましたが、少しハスキーな声が気持ちいい。

3CD+DVDとブックレット付きです。迷ったけれど購入を断念。いい声なんだけれど、購入したいレベルまでぐっとくるものがいまひとつだったので。

Joanna&王若琳(台湾盤)
Joanna&王若琳(台湾盤)王若琳 ジョアナ・ワン

Sony Music Entertainment (TW) 2009-01-16
売り上げランキング : 92820


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ファーストも試聴したのですが、かなりアレンジがきれいにまとまっています。ぼくは上記2枚目のアルバムのほうが、ジャジーな感じがしていいと思いました。

坂本龍一さんの新譜も店頭で見かけました。ところで、TVBros.というTV番組の雑誌を読んでいたところ、坂本龍一さんのインタビューを発見。

090307_sakamoto.jpg

このおじさん、言っていることが結構面白い。共感できるところが多い。新しいアルバムの制作について語っている部分から、以下を引用します。

ピアノは日記を書くようなものでね。時々、一日か二日、気が向くまま、指が赴くままに録り貯めしていたの。日記のような独り言のような、そこから切り抜いて今回持ってきて。だから暗いですね(笑)。ボソボソと独り言を録り貯めしてるような。例えば'09年1月何日の独り言を切り貼りしているようなものなのよ。

いいなあ、なんとなくわかる。ぼくも趣味のDTMでは、作品と気負わずに、日記のように曲を作りたいと思っています。小山田圭吾さんや高田漣さんに、2~3時間適当に弾いてもらって、使える部分を使って作品にすることを「それはまあ、言ってみれば釣りですね」という言葉にも、思わずにやりとしました。

・・・と、まとまりませんが、本と音楽についてメモしてみました。関係ありませんが、とても眠いです。休日に遅寝して布団にもぐりこんでいると天国です。春ですなあ。

投稿者: birdwing 日時: 22:10 | | トラックバック (0)

2008年8月30日

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パーツで組み立てる。

少年の頃には、分解と組み立てに興味を惹かれたものでした。あらゆるものを分解し、その成り立ちを理解したかった。一方で、パーツを組み合わせて次第に形になっていく過程のわくわくする感じに夢中になりました。

最近、玩具屋に行ってもプラモデルの肩身が狭くなっている印象を受けますが、ぼくらが子供の頃には小遣いを貯めてプラモデルをよく購入したものです。うまく完成しなくて凹んだり、高価なキット(といっても、3,000円程度)に憧れて店頭でうっとりしたりした記憶があります。その記憶がモノづくりや創作の原点になっている、というのは言い過ぎでしょうか。

枕元に置いて眠れないときはめくっている集英社文庫の谷川俊太郎さんの「二十億光年の孤独」という詩集には、山田肇さんが次のような解説を書かれていました(P.164)。

当時、谷川さんには鬱屈を忘れる三つの趣味があった。模型飛行機づくりとラジオの組み立てと詩をつくることである。
4087462684二十億光年の孤独 (集英社文庫 た 18-9) (集英社文庫 た 18-9)
川村 和夫 W.I.エリオット
集英社 2008-02-20

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18歳になった谷川さんは集団生活に馴染めずに、教師に反抗したり不登校をしたり悶々としていたらしい。一見するとばらばらにみえる、模型飛行機づくり/ラジオの組み立て/詩をつくること、ですが、この3つが組み合わさると谷川俊太郎さんの詩がみえてくるから面白い。

「二十億光年の孤独」の詩集には、空を滑空するすがすがしさがありながら、どこか理系の緻密さで言葉が組み立てられています。結果として詩をつくる趣味によって、社会からドロップアウトしそうな谷川俊太郎さんは詩人として救済されるわけですが、ひょっとするとラジオの開発者になっていたかもしれません。

川上弘美さんにも感じるのだけれど、ぼくは理系出身のどこか無機質な感覚で情緒を描くような作家が好みのようです。村上春樹さんも最初はそんな空気があったかもしれないですね。観察者としての冷めた視線がありながら、どこかあたたかい。そんな文体。

28日に「スティーブ・ジョブズ 神の交渉力」という本を読み終えました。

4766710487スティーブ・ジョブズ神の交渉力―この「やり口」には逆らえない! (リュウ・ブックスアステ新書 48)
竹内 一正
経済界 2008-05

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この本のなかでも、ジョブズ少年の組み立てへのこだわりが書かれていて興味深く読みました。少年の頃から凡人とは違う能力を発揮していたようです。次のエピソードはすごい(P.123)。

十三歳のころ、エレクトロニクスへの強い好奇心を抑えきれなくなったジョブズは、電子回路の周波数を測定する周波数カウンターをつくろうと考えた。ところが肝心の部品が不足していた。まだ子供である。こんなとき、親に買ってもらうか、つくるのをあきらめるはずだ。

確かに手が届くもので妥協したり、代用するかもしれない。でも、ジョブズ少年は諦めませんでした。

ジョブズ少年は違っていた。キーマンを探しアタックをかける。なんと、シリコンバレーで急成長し、「フォーチュン500」(ビジネス『フォーチュン』の企業ランキング)にもランクされる成功企業ヒューレット・パッカードの社長ビル・ヒューレットにいきなり電話をかけたのだ。
二〇分も話をした上、部品を送ってくれと頼む暴挙に出た。
「電話帳に載っていたから」というのがジョブズの言い分けだが、成果はあった。大企業の社長が見ず知らずの子供に部品をくれた上、「夏休みにヒューレット・パッカードの製造ラインで組立のアルバイトをしないか」と声までかけてくれたのだ。

すさまじい交渉力ですね。手に入れるためには、とことん押しまくる。アップルやピクサーという企業に有能な人材を集める説得にも長けていたようですが、ある意味、人材も彼の夢をかなえるための「部品」だったのかもしれません。それにしてもこの熱意があるからこそ、彼は永遠にひとの記憶に残るようなスピーチもできたのでしょう。

ところで、最近さまざまなウェブのサービスでウィジェットというものが登場しています。これもさまざまな道具を組み合わせて、自分なりの使い勝手のいい道具をつくる組立方式がメリットだと思います。ブログパーツもさまざまなものが登場していて、コードを生成して貼り付けるだけでブログが賑やかになる。もはや懐かしくなりましたが、脳内メーカーというものもありました。

少し前に楽しそうだと思ったのは「アイラブメーカー」でした。

■アイラブメーカー
http://ilovemaker.com/

080830_ilovemaker.jpg

広末涼子さんが、モバゲータウンのCMでI Love FreeというロゴのTシャツを着ていますが、そんなロゴを作ることができる。実際にオリジナルTシャツも発注できるようです。ちなみに広末涼子さんのCMはこんな感じ。

アイラブメーカーにはみんなの作成したロゴが掲載されているのですが、面白いのは、限られたロゴのデザインを別の意図で使っているものがあること。たとえば踊っている人物の手だけ使って「HELP ME」のようなロゴを作っているひとがいました。パーツに注目すると発想も広がります。

というわけで、ぼくもひとつ作ってみました。これです。

はうあああ。くだらないものを作ってしまった(涙)

真面目にエントリを書こうと思ったのですが、しょうもない終わりになってしまいました。いろいろと思いついたパーツを組み合わせてみたのですが、最後の部品は別の何かに組み合わせたほうがよかったのかもしれません。

投稿者: birdwing 日時: 23:50 |

2008年8月17日

a000984

広告とカリスマと感情と。

残暑がどこまでつづくのか途方に暮れていたのですが、東京はいきなり涼しくなりました。雨も降ってクーラーが要らないほど涼しい。過ごしやすくなったので夏の読書として、新書を同時進行で3冊読み進めています。

まず、佐藤尚之さんの「明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法」。現在、P.108を読書中。

4756150942明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045) (アスキー新書 45)
佐藤 尚之
アスキー 2008-01-10

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佐藤尚之さんは、ネットの可能性をいちはやくキャッチして自分でサイトを立ち上げ、コミュニケーション・デザインの領域で仕事を展開された方です。ネットによって変わっていくメディアや広告の在り方について、非常にわかりやすく解説されています。

書かれていることの多くは、ぼくにはあまり目新しいものはなかったのだけれど、入門書として学生などの読者も想定しているからだと思います。その意味では、広告業界をめざす就活の学生さんは読んでおいてもよい一冊ではないでしょうか。たとえば、広告をラブレターに喩え、送り手の気持ちだけではなく受け手である消費者の気持ちを理解することが大事であること、しかもブログなどの登場によって現在ではラブレター(=広告)が届きにくくなっている時代であるという指摘などは非常にうまい。専門用語で簡単なことを難しく語るよりも、ストレートに理解できます。

佐藤さんの文章を読みながら感じたのは、これはブログの文体だな、ということでした。完全な書き言葉ではなくて、ところどころ口語のような表現になっています。ついでに、文末に「(苦笑)」なども挿入されている。それが受け入れられるかどうか、というのは実際のところ書き手にもよるのですが(肌が合わないブロガー系の作者もいます)、ぼくはこの表現が佐藤さんの文章には合っていると感じました。ブログ文化による日本語の乱れだ、などと眉をひそめるおじさんもいそうですが、いいんじゃないでしょうか。若々しいイメージもあり好感がもてました。

つづいて、iPhone3Gによってセンセーションを起こしていますが、カリスマCEOについてまとめた「スティーブ・ジョブズ 神の交渉力」。現在、P.31を読書中。

4766710487スティーブ・ジョブズ神の交渉力―この「やり口」には逆らえない! (リュウ・ブックスアステ新書 48)
竹内 一正
経済界 2008-05

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相当に嫌われ者だったようですね。この本に関しては演出過剰な印象もあるのですが、読み物としては面白いと思いました(全面的にこの内容を信じるのはどうかとも思いますが)。iPodにしてもiPhone3Gにしても、画期的なプロダクトであることはもちろん、製品を生み出した企業の文化であるとか、カリスマ的な経営者の存在も無視できません。経営者個人が広告以上に広告になる場合もあり、何が人を惹きつけるのか、リーダーシップとは何なのか、ということを堅苦しく考えずに読める本だと思います。

そして最後は、和田秀樹さんの「感情暴走社会 -「心のムラ」と上手につきあう」です。現在、P.98を読書中。

4396111207感情暴走社会-「心のムラ」と上手につきあう (祥伝社新書120) (祥伝社新書 120)
和田 秀樹
祥伝社 2008-07-25

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いかにも売れるために付けられた感情を煽るタイトルに若干引きました(苦笑)。書かれている内容についても慎重に吟味が必要だとは思うのですが、なるほど、と思うことも多くあります。秋葉原の殺傷事件を筆頭にして感情をコントロールすることが重要な時代であることを指摘し、精神医学や心理学から、その制御方法のヒントを解説されています。

実は一冊目の佐藤尚之さんの本と重なるのですが、現代では顧客至上主義あるいは消費者に購買の主導権が移ってきています。2006年の「TIME」誌のパーソン・オブ・ジ・イヤーでは「YOU」つまり消費者である「あなた」が選ばれたということが書かれていました。そして、製品開発のなかにも顧客の意見が組み込まれることが多い。顧客好みのプロダクトやサービスが重要であるとされています。

顧客至上主義は重要なことですが、社会全体として進展すると、サービス業などでは過剰にお客様の顔色をうかがうような対応も生まれます。行き届いたサービスが普通であると認識され、少しでも落ち度があると、なんだこのサービスは!とクレーム化する。企業の顧客対応のセクションは、ぴりぴりと緊迫した状態に置かれるわけです。

最近、公務員や教員の不正事件も多いのですが、サービス業化して、お客さま(教師の場合は、生徒や父兄)の顔色をうかがう必要性が高まったところに、問題があるのではないかとも考えられます。

企業として顧客対応でストレスを抱える社員も、会社から離れたらひとりの消費者です。そして、今度は立場が変わり、サービス提供側から顧客になります。業務で抱えたストレスを顧客として別の場所で発散する。そんな顧客至上主義の社会が悪循環を生んでいるという解釈を読んで、なるほどなあと思いました。

ところで、感情コントロールの方法ですが、感情そのものは制御できないのですが、行動で制御する、ということが(当たり前のようですが)とても実践的です。

不安について思考内で解決しようとしても考えつづけている限り感情は解消されないので、行動によって感情への集中化を避けるということです。たとえば、机の上を片付けてしまうとか、そんなことが実は感情のコントロールには効くらしい。でもまあ・・・あえて読まなくても、わかっていたことではありますけどね。

しかし、その感情的であるという欠点を戦略的に活用してカリスマになったのがスティーブ・ジョブズであり、マスコミ嫌いのため、取材で一問の質問に答えただけで腹を立てて立ち去ったこともあったとか。薬物中毒のロック歌手の方がまし・・・と語る記者もいたようです。感情も使い方によっては、最上の武器となる。

と、無理やりいま読んでいる3冊をつなげた印象もありますが、つまみ読みをしていると横断的に重なってくる内容があって、それが思考をスクランブルしてくれます。とても楽しい。1冊をじっくり読むのも大事ですが、全然関係のない本が関わりあってみえる偶然にわくわくします。

しばらく思考系のブログから遠ざかっていました。けれども社会現象を含めて、さまざまなことを考察していきたいと考えています。夏から秋に向けて。

投稿者: birdwing 日時: 22:29 | | トラックバック (0)

2008年8月16日

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荘厳な、日常から放たれるような。

ここ数日、シガー・ロス (Sigur Rós)のアルバムをまとめて聴いています。シガー・ロスは北欧アイスランド出身の4人によるバンドです。今日は夕方になって、空を眺めながら歩いていたのですが、iPodで次のアルバムを聴いていたら、荘厳な、というか日常から意識が空に向けて放たれていくような、そんな気持ちになりました。

B00006JYMW( )
Sigur Ros
Fat Cat 2002-10-28

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ちなみに、眺めていたのはこんな空。

080816_sora.JPG

外出するときまでは曇っていたのですが再び天気が回復し、雲の切れ間を照らすように光った夕陽がきれいでした。デジカメを取りに家に戻るまでのあいだに雲のかたちは変わっていて、ぼくが残そうとした空が消えていたのが残念です。東京の夕焼けは淡い色のことが多いのですが、地方でみる夕焼けは空気も澄んでいるため、もっと美しいのではないかと思います。

シガー・ロスのアルバムは、タイトルが付けられないということで「()」になったらしいのだけれど、1曲目、繰り返される旋律の美しさが秀逸です。ピアノの音と混じりあう弦の響きや、独特のファルセットヴォイスも遠い北欧の空気を感じさせるものがあります。探してみたところ、YouTubeにその1曲目の映像がありました。2003年にMTVのヨーロッパ・ミュージック・アワードにて最優秀ビデオ賞を受賞した、というPVでしょうか。


■sigur ros - untitled #1 (vaka)


美しい旋律の向こう側で遊び戯れる純粋無垢な子供たち。反して環境汚染を示唆する棘のある映像がすばらしい。退廃的な風景と、せつない調べの対立にじーんと胸を打たれます。ちなみに、バンド名であるSigur Rósはアイスランド語で「勝利の薔薇」という意味だそうです。美しいものには棘がある。

アイスランド語で「ありがとう」を意味する「Takk…」を聴いたときには、背筋になにか電気が走りました。そのほか、2枚組の「Hvarf/Heim(消えた都) 」しか聴いたことがなかったのだけれど、次のアルバムもよかった。

B00005NYJYアゲイティス・ビリュン
シガー・ロス
カッティング・エッジ 2001-10-03

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そして、最新アルバムは1曲目からとっつきやすい音づくりになった気がします。左右に飛び交うアコギの音が新鮮です。どこか民族音楽風のパーカッション、ラジオから聴こえるようなノイズっぽい音など、さすがに音づくりが凝っています。

B0019LGASU残響
シガー・ロス
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M) 2008-07-02

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うーむ、あまりにも解放的なジャケットです。夏らしい。思わずこんな風に走りたくなっちゃいますね。いや、走りませんが。

10月には来日もするようです。ライブでどんな音を披露するのでしょう。とはいえ、iPodで聴くぼくの眼前にも、北欧のどこか厳かな風景がひろがります。それは現実とは異なるぼくの心象だけの風景かもしれませんが、その風景がひとときぼくを現実から解き放ち、癒してくれています。

+++++

■Wikipedia シガー・ロス

■オフィシャルサイト
http://www.emimusic.jp/intl/sigurros/

■myspace
http://www.myspace.com/sigurros

投稿者: birdwing 日時: 23:57 | | トラックバック (0)